溶かす なんだか洒落た気配がするパッケージ。
多分、ものすごく高い訳じゃない(お返しを気遣って)けど、丁度よくおれの好きな味がするんだろうな。小さい頃のキャラクターものから始まって、毎年確実におれの好みをついてくる。
今年の箱は、去年もらったものよりちょっとだけ大人っぽい気がして、そこには少しだけ満足した。
「……ありがとう。おれもチョコ、買ってあるんだ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
そう言って、ラーハルトは形の良い眉尻を僅かに下げて目を細めて笑う、いつもの笑い方をした。
向こうが絶対に用意してくるから、それなりの小遣いが捻出できるようになってからはこちらもそれなりに頑張って考えて自分で買って渡しているけど、毎年ありがたがって部屋に飾ってなかなか食べてくれない。あとそもそもラーハルトは甘いものが好きじゃない。そろそろ食べてよ、と毎年最後に怒っては別に好きでもないものを食べさせるのが、嬉しいような、悲しいような、難しい。
だから今年は考えた。
ラーハルトの手に置いた包みの紙をびり、と破く。
「……!」
微笑んでいた唇がすっと下がった。顔をぱっと上げてこちらを見るラーハルトの顔がこわばっている。
「あげても食べない、だろ? だからさ、もうラーハルトは食べなくて、いいから」
「……ダイ様……」
ざあと音を立てる勢いで青ざめる顔を見つめて、震えながら握りしめられたラーハルトの拳に掌を重ねた。早く意図を伝えないと窓から飛び降りたりしそうだから。ここ3階だから、運動神経を考えてもぎりぎりだな。
剥ぎ取った包み紙を横に置いて、箱をぱかりと開けて中のチョコレートを指差す。
「食べさせて」
「は」
「……一番甘そうなやつ、選んだんだ。ラーハルトの、好きじゃないやつ」
ベリーとかスイートとかいっぱい書いてある、絶対好みじゃないチョコレート。自分で言ってても意味が分からないな、と思いながらにっこりと笑って続ける。
「だから。あげるけど、全部、おれのだよ」
ラーハルトが切れ長の目をぱしりと一回閉じてまた開けた。そうしてまた眉尻を下げて笑う。あの大人の笑い方。
「……はい」
そっと指が一番上のピンク色のチョコレートをひとつ摘んだ。口をぱくりと開けて待っていたら、すうとそれがラーハルトの口に入っていって、あれ?と思った瞬間。
ラーハルトの顔が近づいてくる。
伏せられた瞼、部屋の明かりに睫毛の影が色濃く落ちる。その下に、咥えられたピンク色。
思わず見惚れていたらチョコレートがかちりと歯に当たった。
「……」
八個入りだった気がする。多分、全部は食べられないな。
それどころじゃ、ないから。