Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    suika

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐲 🍉 💜 💗
    POIPOI 44

    suika

    ☆quiet follow

    魂のKZN、手袋ヒュンマクエストありがとう!!!
    クエストの前日譚をねつぞうしました。手袋を選ぶまでのマァムとメルルとレオナのお話です。ポプメル風味もあります。

    #ヒュンマ
    hygmma
    #ヒュンマアドベント
    hyundaiAdvent

    Happy holidays 街の近くにあらわれた魔物を倒して戦いが終わったあと。マァムはヒュンケルが腕に受けた傷に回復呪文を施していた。
     肘と手首のちょうど間あたりに受けた切り傷が、柔らかい翠の光に包まれて少しずつ塞がっていく。
    「……はい、終わったわ」
    「いつもすまない」
    「ううん。ちょっと動かしてみて?」
     手首を支えてそう言うと、ヒュンケルは一本ずつ指を折ってから、拳を何度か握って開いてみせた。
     マァムはその動きを確認して、大丈夫ね、と頷いてから、ずしりと重たく厚みのある手の指先にふと目を止めた。
    「ヒュンケル、これ」
     そう言われたヒュンケルは何のことか、という顔で自分の手を見たあと、「ああ」と初めて気づいたという様子で指先を上に向ける。剣だこのできた骨ばった指はかさついていて、爪の周りにはひび割れがいくつも走っていた。何ヶ所かは乾燥のあまりぱくりと小さく割れてしまっている部分もある。
    「痛くない?」
    「いつもこうだ。怪我ではないからな。心配ない」
    「そう……」
     マァムはもういちどそのひび割れにもホイミをかけようかと迷ったが、魔力はとうぜんのことながら有限であり、温存しておかなければならない。いざ仲間が深刻な怪我をした時に、魔力切れを起こすわけにはいかないのだ。出血もなくて本人が痛みもないというのならば無駄に回復魔法を使わず自然の治癒に任せるべきだろうと思ったが。
    ――その乾いてひび割れた手を、治してあげたい、とふとマァムは思った。
     寒さも深まってきて、外は晴れの日でも乾いて冷たい風が吹いている。そんな寒風には関係なくヒュンケルもみんなも鍛錬をしているが、せめて何か、冷たい風から手を守るようなものがあればいいのに。
    「乾燥してるから……。あんまりひどくなる前に、軟膏を塗ってね」
     マァムがヒュンケルの手を静かに包んでそう言うと、ヒュンケルは「ああ」と小さく笑って頷いた。
     
    ***
     
    「わあ……これ、メルルが作ったの? 素敵!」
     宿の部屋で、マァムは小さく歓声をあげた。
     メルルの作った白い糸で赤と緑の中に複雑な模様が編み込まれたミトンは、彼女の肌色をひきたてるように明るい色でとてもよく似合っていた。すごい!と衒いなく褒めるマァムの言葉にメルルは嬉しそうに微笑む。
    「ありがとうございます」
    「あ、これも?」
     側机の上に置かれた、雪の中の針葉樹のような深い緑色の小さくなった毛糸玉と、その色で編まれた手袋。それを見たマァムが尋ねると、メルルがとつぜん慌ててわたわたとその手袋と毛糸を隠すようにして、それから観念したようにそっと置き直した。
    「え、ええと……これは。あの。贈りたい人が……いて……」
     喜ばれるか分からないですが、と頬をうすい紅色に染めたメルルが最後の方はほとんど聞こえないほどの声で小さく呟く。
    「素敵じゃない。絶対に喜ぶわよ!」
     縄のような模様に編まれた落ち着いた色の手袋は、つけたら雪の中でもきっと暖かいに違いない。素人が作ったものとは思えない整った編み目で、お店に出したら人気になってたくさん売れるだろう、と思えるほどのものだった。
    「そうでしょうか……」
    「そうよ。自信持って、メルル」
     はい、と顔を赤くしたまま小さく頷くメルルに微笑んでから、マァムはふとそのふたつの手袋をもう一度見て、小さくため息をついた。
    「プレゼントかぁ……いいな。メルルはこうやって作れて。とっても上手だもの」
     少しだけ、胸の奥がちくんとするような気持ちになる。私もこんなふうに、素敵な贈り物が作れたらいいのに。
    「あ、でも……。この手袋、指なしなので見た目より簡単に編めるんですよ。マァムさんも、やってみますか? お教えしますよ」
    「え、私? ……やめておく。こういうの、苦手なの」
     綺麗な刺繍の入った袋から編み棒を出してそう言うメルルに、マァムは昔、母に編み物を習った時のことを思い出して苦笑いした。
     編み始めの目を作るところから何度やっても絡まってしまってうまくいかなかった。母に編み棒に作ってもらった目で始めては見たものの、編んでいくとどんどん目が詰まっていってぎちぎちになり、なぜか編み目の数も合わない。それを解いてまたうんうん唸りながら編み直して、やっとうまくいったと思って広げてみると、裏側はでこぼこで飛び出た毛糸がところどころにはみだしているのだ。
     がっかりして泣きたくなって、そこでやめてしまった編みかけは母が周りを包むように編んで裏打ちをして、小さな飾りに仕立ててくれたけれど。
     あまり楽しいものとは言えなかった編み物の記憶が思い起こされてマァムは眉を下げて微笑ってみせた。
    「毛糸の巻き直しくらいなら、できるけど……編みものは細かくて。向いてないのよ」
    ――とても、人にあげたりするようなものはできないし。
     心の中でそう思って床に目を落としたマァムの肩の後ろから、ひょこんとレオナが顔を出した。
    「――なら、解決方法があるわよ」
    「わっ⁉︎ びっくりした」
    「マァム。手袋、あげたい人がいるんでしょ?」
     両肩に手を乗せてマァムの顔を覗き込むようにそう言うレオナにマァムは驚いた。プレゼントしたいなんて、言ってないのに。
    「なんで……分かったの?」
    「今、『私も作りたいな〜』って顔、してたわ」
    「ううん。私は……」
     できないから、と言いかけたマァムの口を塞ぐようにレオナがぴしりと指を立てた。
    「もう一度聞いちゃうけど。……手袋、誰かに贈りたいんでしょう?」
     つん、とそのままつつかれそうな近さにあるレオナの指にマァムはう、と顎を引いて、それから少し考えてから頷いた。
    「……そうね。何か、暖かくいられるようなもの……手袋、いいなって思ったんだけど。でも、違うものにしようかな。……私は、作れないから」
    ――メルルにお願いして作ってもらったら、素敵で喜んでくれるかもしれないけど。何だかそれは違う気がする。
     ちいさく笑うマァムの前にレオナはくるりと回りこんで、ちちち、と近づけていた指を振る。
    「違うわよ。作らなくったって、いいじゃない」
     呆れたような声に、マァムはえ、と顔をあげてレオナの顔を見た。
    「手作りも素敵だし、作れなかったら買ってあげたっていいと思わない?――贈り物に大事なのは、その人のことを思う気持ちなんだから」
     マァムは微笑むレオナの顔を見つめてぱちぱちと瞬いて、それからふいに、あの時彼の手を包んで思ったことをマァムは思い出した。
     指先が割れるほど、寒い思いをしないでいてほしい。自分のことに頓着しない彼に、少しでも暖かくいてほしい。
     ――ヒュンケルに、少しでも幸せでいてほしい。そう思ったのだ。
     自分の中の気持ちに気づいたマァムは、こくりと頷いた。
    「そう……そうね。メルルの手袋があんまり素敵だから、つい私も……って思っちゃったの。――でも、そうよね。レオナの言う通りかも。作ったって、買ったっていいわよね。大切なのは、気持ち……」
     口の中で繰り返すように呟くマァムにレオナはそうでしょ!と深く頷く。そのやりとりを見ていたメルルも後ろで微笑んだ。
    「――じゃあ決まりね! マァム、プレゼントするのにどんな手袋がいいか、考えた? やっぱりたくさん種類を見て選びたいわよね」
     そう言ってレオナは手に持っていた美しい装飾の入った紙を二人の目の前で優雅に広げた。
    「なら選択肢はひとつよ。ベンガーナのデパートに買いに行きましょ! みんなのプレゼントを買うの。メルルもプレゼントのラッピングが必要でしょ? あとあとぉ、ホリデーコフレね、新作全部チェックしてきたの。これが買いたいものリスト。出遅れちゃったけど、まだある分だけでも絶対手に入れたいわ。セール前に洋服も一通り見ておきたいし。シュトーレンとジンジャークッキーも買っておかなきゃだし……あと地下のスラタピのお店ね、今はホットショコラが人気らしいの。限定なんだけど、並んででも絶対飲みたい〜!」
     そのレオナの広げた美しい紙は果たして、ホリデーの商品を案内するベンガーナデパートのパンフレットであった。ぱしぱしと指で差しながら矢継ぎ早に並び立てるレオナに、メルルとマァムは圧倒されてぽかんと口を開ける。
    「……つまり、デパートに行きたいのね。レオナ……」
    「そういうことですね……」
     顔を見合わせてひそひそとそう交わす二人の前で、レオナは腰に手を当てて仁王立ちになった。
    「何よお。みんなへのプレゼントを買うののついで。つ、い、で。よ。ちょっとくらいいいでしょ!」
     ぷうと頬を膨らませてそういうレオナに、「分かったわ」「はい」とマァムとメルルは笑った。
    「じゃあレオナ、一緒に選んでくれる? 私、デパートって行ったことがなくて」
    「私も……一緒に考えていただけたら嬉しいです」
     そう言う二人にレオナは膨らませた頬の表情をくるんと変えて微笑むと、胸を張って高らかにパンフレットを掲げた。
     
    「任せて! 絶対素敵なプレゼントにしましょうね。じゃあ、デパートに、しゅっぱーつ!」
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🎄🎁💝☺🎉🎅🎁🎀💜❤👏👏👏🙏🌋👍👍👍👏👏👏👏⛄❄⛄❄⛄❄⛄❄⛄❄🌟🎄🎅🎄🎁☺💝💝💝☺💞🎄🎁💗☺☺💖☃☃☃☃💗💗💗💗💗👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works