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    suika

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    suika

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    アポマリです。アポマリの伝道師、はーちゃん様へ捧げます!🙏🙏🙏
    原作後、二人で暮らしてるアポマリ。マリンさんはバリキャリ。
    ホリデーの設定はめちゃくちゃに捏造ですがクリスマス+お正月をイメージしていると思って読んでください。

    #アポマリ
    apomaly

    賢者の食卓 三賢者は忙しい。

     パプニカが一度壊滅的な打撃を受けたあと、数年が経った。
     流れた時の中、パプニカの復興は他の国々に比較してもめざましい勢いで進んでいる。それは亡きパプニカ王の跡を継ぎ女王に即位したレオナの強い統率力と、何よりも生活を元に戻そうという人々の強い気概が大きかった。
     
    ――故に三賢者は、本当に、忙しい。
     
     女王の直属である三賢者には、登城した瞬間に矢継ぎ早に数々の案件が持ち込まれるのが常だった。
     前日からの引き継ぎを受けて女王の今日の予定の確認から始まり、日の迫った祝祭の日の祭典の段取りの最終確認、寄稿する挨拶文の校正、昨日までに届いた地方の村々からの陳情書・嘆願書全てに目を通し、今月の交際費の報告書に疑義がないか確認する。あったところでほとんどその通りに読んではくれない女王のスピーチの原稿も確認する。
     昼食の時間もそこそこに、大臣からの報告とその資料の読み込み、午後だけで続けて二回行われる会合の流れを女王に報告し、立ち会い、途中で女王の今日のお茶菓子は何がいいかという侍女の相談に今日はお好きなレモンのアイシングクッキー、と耳打ちもする。
     そして日が傾き始めた頃に執務室に戻ると、そこには種々様々の決裁文書が低くはない背のマリンの顔の高さまで堆く積まれていた。
    「ふう……」
     小さくため息をついたマリンは、しかし一瞬でふるりと首を振ると、「よし」と小さくつぶやいて力強く執務机に座った。
    「アポロは?」
    「さきほど女王に呼ばれて、まだ戻られておりません」
    「そう。要件は聞いていますか?」
    「いえ。あとで女王から伝えると」
    「わかりました。ありがとう」
     報告事項が増えたのだろうか。主に外交系の事項を司っているエイミは今長期の視察に出ていて、三賢者はアポロとマリンの二人しか残っていない。アポロが戻らないならば、残った自分がこの書類を片付けるしかない。明日は明日で同じ量――もしくはこれ以上――の書類が舞い込むだろうから、持ち越すわけにもいかないのだ。
     
     それから数刻ほど。仕分けた書類の山をばりばりと右から左へ分類しながら片付けていると、教会塔から夕刻の鐘の音が聞こえてきた。
    ――少し休憩しようかしら。
     お昼もサンドイッチを一個食べる時間がぎりぎりとれただけだった。さっき相談にのった侍女が差し入れてくれたクッキーをつまんだけど。流石のお腹の虫も、ご飯がもらえなさすぎて鳴く気にもなれないらしい。
     マリンがぐうと伸びをしてああ、とため息をつこうとしたその瞬間。近衛兵の一人が執務室の扉を開けた。
    「マリン様、式典のことで大臣が――」
    「すぐに行きます」


     ***


     今日起こった仕事を全てマリンが片付けて門を後にした時には、日付ももう変わろうとしていた。

    「ああ……疲れたぁ!」
     疲れた足を動かして城下町を歩く。
     呼ばれた後執務室には戻れなかったのでアポロは結局最後まで捕まらなかったが、それはよくあることだ。同じ場所で働いて、同じ家に住んでいるのに職場では仕事の話だけ、家で会うのは寝顔だけ、ということもざらで。

    ――もう酒場以外は開いていないし、食べ逸れたお夕ご飯はどうしよう。もう少し早ければワインを一杯くらい飲んで帰りたかったけど。今日は最後に飛び込んできた一件にだいぶ時間を取られてしまって飲みに行く元気も流石に残っていない。
     もう帰ったらこのまま寝てしまってもいいかもしれないけど、せめて何か食べておかないと。家にパンと林檎くらいは残っていたかしら。せめてスープの残りでもあればいいけれど。

     そんなことを考えながら灯りの消えた街を歩くと、ふと、道に並ぶ家々の軒先や扉にきらきらと光る金や銀の装飾が飾りつけられているのにマリンは気づいた。
    「もうホリデーだものね……」
     ホリデーは、一年の節目となる祝祭の日に合わせて人々が家族と過ごすための休みのはずだけれど、祝祭の日当日は式典があるため当然にマリンもアポロも仕事なのだった。
     アポロとは明日寝るまでに顔を合わせられるだろうか、とマリンは小さく苦笑した。まあ、家ですれ違ったところで城で膝を突き合わせて仕事の話をする時間だけはたくさんある。

     パートナーと同じ仕事をするなんて、嫌ではないかと聞かれることはあるけれど、マリンは全くそう思ったことはなかった。昔から、アポロとエイミと三人でずっと一緒に賢者を目指して走ってきた。考え方が違うところもあるけれど、人々のために、という目指すものが同じだから、ぶつかることがあっても嫌な気持ちにはならない。おかげで家でも喧喧諤諤の議論を繰り広げてしまうこともあるけれど、より良い答えを目指すための必要な過程だと思えるのだ。お互い切り替えが早いから引きずることもあまりない。
     だから、忙しいけれど充実している今の仕事と生活を、マリンはわりと気に入っている。たまにはゆっくり二人でディナーを、なんて思わなくもないけれど。
     そう思いながら住宅街の石畳の道を歩いていると、あっという間に家に着いた。
     
     鍵を開けようとして、マリンはふと、玄関の横の明かり取り窓から見える暗闇の中に、小さな淡い光が灯っているのに気づいた。
    「?」
     アポロが帰っているなら、万が一先に寝ているとしても居間の灯りはつけておいてくれるはずだ。
     部屋の暗闇の中その光は少しだけ揺れていて。そう、まるで、小さな灯りを持った誰かがこっそりと暗闇の家の中を探索しているような――
    「……盗賊?」
     マリンは表情を引き締めた。最近、城下町に盗賊の被害が複数続いている報告を受けて、近隣地区の見回りを強化するように指示を出したことを思い出す。
     近くの警備兵の詰所までは距離がある。呼びに行っている間に逃走されれば、他の家に危害が及ぶ可能性がある。もし本当に賊だとしたら、今捕まえておかなければ。

     家の周りに他のものが潜んでいる気配がないことを素早く確認し、鍵穴に差し込んだ鍵をそっと回す。呪文封じにさえ気をつければ、一般人の盗賊などパプニカ三賢者の相手ではない。
     呪文の詠唱の準備をして、マリンはがちゃりと扉を開けた。
    「ただいまぁ。――アポロ? 帰ってるの?」
     気配に気づいていることを悟られぬよう、わざとのんびりと問いかけると、居間の奥で小さな灯りがゆらゆらと揺れて慌てたような人影がその光の中で動いた。
    「――アポロ?」

     もう一度名を呼んでみる。返事は、ない。

    「……」
     マリンは口の中で小さく呪文を詠唱する。ぎ、と床の音を立てて廊下へ一歩踏み出すと、居間の暗がりでがさりと動く音がした。

    「そこまでよ!」
    「――⁉︎」
    「凍りなさい!――ヒャダ――!」

     満ちた魔力がマリンの髪をふわりと持ち上げる。氷の刃は冷気を巻き上げて乾いた音を立ててマリンの指先にみるみる形を成した。人影をその冷たいきらめきの中に閉じ込めるべく――

    「――っ、マリン、私だ!」
    「えっ、あっ、アポロ⁉︎」

     とても聞き覚えのある声が聞こえて、飛び出してきた人影にマリンは慌てて指を下ろした。最後まで唱えられることのなかった呪文は集めた魔力を失って、指先に現れていた透明の刃は見るまに空中に溶けていく。
     力を無くした氷の粒まじりのつめたい風が二人の顔をぶわりと撫でていった。

    「ああ……驚いた……」
     目の前で冷や汗をかきながら胸を撫で下ろしたのは盗賊などではなくて。まったくこの家にいてしかるべき住人。アポロだった。
     マリンは口をぽかんと開けて、それから口を引き結んで腕を組む。そのポーズはほぼにおうだちだった。
    「……ちょっと! 驚いたのはこっちよ。なんで返事してくれなかったの? 灯りもつけないで……泥棒かと思っちゃったでしょう⁉︎」
     マリンがにおうだちのまま食ってかかると、アポロは慌てた様子でたじたじと一歩下がって弁明した。
    「いや!すまない。違うんだ!これにはわけが……」
    「どういうわけ……」
     そう言いかけてマリンは、頼りない灯りのみがわずかに照らす居間にさっき街で見かけたホリデーの飾りが飾ってあるのに気づいた。金と銀の飾り、赤のリボンに鈴。そしてその下に用意された夕食のテーブル。
     アポロは頬を掻いて苦笑した。
    「夕方女王に言われたんだ……『ホリデーの当日は休めないんだから、今日くらい早く帰って二人で過ごしなさい』ってね。マリンにも言おうとしていたらしいんだが、その様子だと会えなかったのかな」
    「夕刻の鐘のあとに式典の話で呼ばれて……執務室に戻ってないの。だから捕まらなかったのかも。――それで……なんで真っ暗闇にこっそり隠れていたのかは教えてくれるかしら?」
     言葉に多少含んでしまった責めるようなニュアンスくらいは許してほしい。こちらだって大分驚いた。
     出てしまった怒りの気配に、怒らないでくれ、の意味かアポロは両手を制止するようにあげて首を振った。
    「すまない。その……。たまにの二人の時間だから、ちょっと洒落た演出っていうのを前にポップくんから聞いたのを思い出して……。部屋を暗くして、帰ってきたら燭台に灯りを付けて驚かせるっていうのをね」
     マリンはアポロの説明に目を丸くした。アポロはどちらかと言えば、いやどちらかと言わなくても、あまりそういう気の利いたことをするタイプではない。
    「やってみようかと思って用意してみたんだが……君を待っているうちについつい、本に集中してしまって」
     部屋の奥のアポロが座っていたらしき椅子の横の側机には、夜の読書用の手燭と本が何冊か積まれていた。読み差しらしき本が開いたまま床に落ちている。慌てて立ち上がった時に落としたのだろう。
    「でも、やっぱり慣れないことはするものじゃないな。氷漬けになるところだった」
    「……待ってるうちに、本を読み耽って忘れちゃったのね。で、私が帰ってきたから慌てて飛び出してきたっていうことかしら?」
    「ご明察だよ」
     苦笑いで頭を掻くアポロに、マリンはもう、と笑って床に落ちた本を拾って手渡す。アポロは律儀に読んでいたページを確認して栞紐を挟んでからそれを側机に戻し、代わりに置いてあった手燈を手に持った。
     橙色の光に照らされた部屋を振り向くと、用意されたテーブルとホリデーの飾り。壁の飾りとリボンはぴっちりと均等に止められているけれど、他の調度品とのバランスが多少悪いような位置でそれがいかにもアポロらしい。テーブルの上には整えられた色とりどりの前菜と、鴨のソテー、小さいパンの入った籠とワインの瓶。一緒に暮らすようになってからアポロの料理の腕はめきめき上がった。むしろ教えたはずのマリンを差し置いて遥かに上手くなったと言って良い。
    「夕飯は……もう食べてしまったかな。こんな時間だしね。これは明日にも取っておけるようにしてあるから今日食べなくても良……」
     言葉の途中でぐう、と小さく鳴ったお腹の音に、こちらを見たアポロとぱちんと目が合って、二人は同時に吹き出した。
    「私も全然ムードが無いわね……。夕飯、食べてない。すっごくお腹、減ってるの」
    「なら作った甲斐があったな」
     くすくすと二人で笑い合って。手燈の火で部屋のランプに明かりをつけようとするアポロの袖をマリンはくいと引いた。

    「ねえ。その『演出』、見てみたいからもう一回やって? 驚かせたかったんでしょう?」
     悪戯っぽくマリンが笑うと、アポロはぱちぱちと目を瞬いてから、眉を下げて笑った。
    「じゃあ――挽回のチャンスをもらおうかな」

     
     アポロがテーブルの上の燭台に人差し指を向けて、ふうと魔力を集中させる。
    「――メラ」
     横に振った手の指先から放たれたちいさな魔法の火の玉は、ふわりと飛んで燭台の五本の蝋燭にひとつずつ灯りをともす。
     いちばん最後に飛んだ炎は、テーブルの真ん中に置かれた小さなグラスの水に落ちた。あ、とマリンが思う間に、しかし水に落ちた炎は消えるどころか逆に赤と青と黄色が混ざる透き通った炎をその水面に浮かべて燃え上がった。
     グラスの中身はおそらく酒精だったのだろう。透明のグラスの中からたちのぼる揺れる炎にマリンは感嘆の声をあげた。
    「わあ……!」
     壁にかけられたホリデーの飾りがきらきらとその光を反射して煌めく。ゆらめくグラスと燭台の炎は、部屋の中を不思議な温かさで明るく照らした。
     
    「本当は、これを最初から格好良くやりたかったんだけど……――わっ」

    「――ありがと。アポロ」

     照れたような顔で振り返るアポロの頬に、そっとマリンが唇で触れて微笑むと。
     その頬は明かりに照らされたのか、うす赤く染まっていた。
     
     
     
     
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