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    suika

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    ヒュンマフェス雪花、開催おめでとうございます!
    手袋ヒュンマ🧤です。突然の現パロ。時期はずれの初詣。

    #ヒュンマ
    hygmma
    #ヒュンマフェス雪花
    hummafestSnowFlower

    お詣り「みんなどこかしらね。全然見えな――わっ」
     目の上に手を翳したマァムが、横を逆の方向に降りていく男とすれ違いざまにどん、と肩をぶつけた。
    「すいませーん」と男が軽く頭を下げるのにマァムも「すみません」と頭を下げて、ヒュンケルの顔を見上げてきた。
    「人、多いわね。はぐれちゃいそう」
     参詣のために並んだ列は、入り口から門の先までずっと伸びていて、本殿までの階段は人でごった返していた。ひょい、と手袋の手を取られてヒュンケルは目を見開く。
    「どこまで混んでるのかしら。上までいっぱいかなあ」
     取った手をなんの屈託もなく握ったまま周りを見回すマァムに、ヒュンケルは胸中によぎった動揺を表に出さぬように平静を装った。
    ――これは、あれだ。小さい頃に「ねえ、あそぼう!」と手を引かれたときと全く同じ。
     種々の感情が胸中を渦巻く。振り解くのも不自然だし、純粋にはぐれないように、とやっているのだから余計な感情を抱かせたくない。
     外からの見た目には何も出さずにヒュンケルはそっと階段の上を見上げた。その横で「あ」とマァムが何かに気付いた様子で声を上げた。
    「これ、新しく買った?」
    「……? ……ああ。内側が発熱素材らしい」
     マァムが握った手を持ち上げて、そこにはめた手袋を見て無邪気にいいなあ、と笑う。
     身につけるものにかなりこだわるラーハルトが、店で見かけた時に珍しく褒めていたので先日買ったものだった。奴曰く、薄いが寒冷地でも使える、防水だが湿気も通す高機能が良い、デザインもシンプルで悪くない、とかなんとか。講釈が長かったのでぼんやり聞いていたら脛を小突かれたのを思い出す。
     マァムがしげしげとその登山ブランドのタグのついた手袋を眺める。
    「これ、最近人気のでしょう? 見たことあるわ。あったかい? 自転車用にいい手袋、探してるんだ」
     部活の帰りは流石に寒いし、とぼやいたマァムがふと階段をあがった先で笑う男女の集団に目をとめた。
    「あ……あれレオナたち、かな?」
    「いや……」
     マァムが指差す先にいたグループは、背格好こそ似ていたが振り向いた顔は全く別人だった。
    「違った。ラインしてみようかな」
     マァムがコートのポケットに手をやろうとするのをヒュンケルは「いや」と遮った。きょとんとこちらを見上げてくるマァムに、一瞬の間を置いてヒュンケルは続けた。
    「この人混みだ。階段でスマホを落とすと危ない。……どうせ自由には動けない。列を抜けたところで連絡した方がいいだろう」
    「そっか」
     ポケットにやった手をそのまま戻したマァムに頷いてすっかり止まってしまった列を見上げる。
     嘘でもないが、全部今適当に思いついた理由だった。別に連絡したところで問題はないのに。
     
    ――咄嗟に止めてしまったその感情は。
     
     マァムに気取られぬ程度にちいさく息を吐くと目の前の空気が白んだ。なんとはなしに高く澄んだ空を見上げる。
     どこかで焚き火をしているのだろうか、つめたい空気にわずかに煙の匂いがまじる。近くの鐘楼から響く鐘の音。福引を回すがらがらという音、あちらこちらで聞こえる笑い声。
    「ここはいつもこうだな。……変わらないな」
     こうして年がかわるたびに初詣に来るようになったのはいつからだっただろうか。思い出せる一番古い記憶は、まだ歩くのも辿々しい小さなマァムの手を引いて歩いた記憶。あれは父さんと暮らすようになってすぐのことだっただろうか。
     マァムが「そうね」と笑った。
    「四月からも、あんまり遠くないといいわね」
    「……ああ」
     就職先は最初の数年間は勤務地が各地に指定される制度だった。どこの地域に配属されるかはまだ分からない。
    「父さんが心配するだろうから。正月と、夏には帰るつもりだ」
    「本当? じゃあ、来年もまた一緒に来られるね!」
     握った手を振って無邪気に笑うのに、頷くことはできなくて曖昧に微笑んだ。
     幼馴染、と世間的には呼ぶのだろうか。こんな曖昧な優しい関係が今の年まで続くなど、奇跡のようなものだ。
     マァムを駅まで車で送って行った時にたまたま出くわして、「は!?さっきの彼女じゃねえのかよ!?」と驚く友とその横で呆れた顔で首を振る友の姿が同時に脳裏を過ぎる。
     次の年には一緒にいたい誰かが、彼女のそばにいるかもしれない。その時には今の言葉など、忘れていてくれればいい。
     どこかで太鼓の音が聞こえ始めた。祈祷が始まったのだろうか。
     少しだけ動き始めた列に足を踏み出す。
     
     この時が、少しだけ遅く進めばいい、と心のどこかで一瞬だけ願って。
     
     冬の空気の中に、それを振り払った。
     
     
     
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