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    suika

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    suika

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    ヒュンマ。
    ふしにげを書こうとしてなぜか違う展開に……
    ヒュはこんなこと言わない!と私が一番思っています。すみません。何でも許せる人だけ読んでください🙈

    #ヒュンマ
    hygmma

    がいこつAとBの反乱「ご報告が……! ヒュンケル様っ」
    「なんだ」
    「牢の娘が、逃げ出しました」
    「何……⁉︎ 見張りはどうした」
    「それが、その」
     報告にきたミイラ男は一瞬口篭ったあと、言いづらそうに小さめの声で続けた。
    「牢屋番が逃亡を手伝ったらしく……」
    「何だと……⁉︎ どういうことだ⁉︎」
    「はっ……それが……。泣きながら『尊い。尊い……』と譫言のように繰り返しておりまして……」
     
    「は?」

     よくわからない部下の報告に、玉座から立ち上がったヒュンケルは思わず素のトーンでもう一度聞き返したのだった。
     

    ***


     牢屋に駆けつけたヒュンケルは、目の前に広がる光景がいまいち飲み込めずにそれを三度見した。
     娘を入れた牢屋の番につけていたのはがいこつが二人。それが揃って開け放った牢の扉の前で座り込んでため息をついたり天井を見上げたりしている。
    「……どういうことだ!」
     通路に響き渡ったヒュンケルの怒号に、ぼんやりと宙を眺めていたがいこつ二人――AとB――は今初めて気づいた、という体でヒュンケルの方を振り返る。
    「……あ、ヒュンケル様」
    「これは一体どういうことだ⁉︎ 娘はどうした!」
     その怒号に、一瞬動きを止めたがいこつAが頭蓋骨をカタカタと音を立てて震わせはじめる。その謎の行動にぎょっとしたヒュンケルの前でがいこつAの震えはみるまに全身に広がった。
    「尊いんですよぉ!」
     わなわな、いやカタカタと震えて無い天を仰いで叫んだがいこつは、ばっと床に伏して泣き始めた。思わず一歩後退ったヒュンケルの顔をがばりと見上げたがいこつの真っ黒の眼窩から出るはずのない涙がぽろぽろと次から次へとこぼれ出てくる。
    「ど、どうした……」
    「あのお嬢さんが、尊い……」
    「いや、尊いってなんだ」
     もっともな質問をするヒュンケルにがいこつAはぶるぶると首を振る。
    「あのお嬢さんを……あのまま牢に閉じ込めておくなんてできません。あんな。いち魔物の自分たちにまで優しく微笑んでくれて。自分、あのお嬢さんに縄なんか巻くのかわいそうで。巻けなかったんですよお。ヒュンケル様。本当、なんてひどい指示するんですか!」
    「ひど……。いや……敵だぞ。人質だぞ」
     まぁ、オレだってちょっと可哀想だとは思ったが。でも人質だし。拘束はするだろう。普通。
    「でも『私頑丈だから大丈夫よ。あなたが怒られちゃうでしょう』って言うんです。自分のこと捕まえてる敵にですよお!? 自分もう感動しちゃって……あんなに優しい人に会った事ないです。オレ、気づいたら魔王軍に染まっちゃってたけど……その言葉を聞いて、オレ何してるんだろうって思って。心洗われちゃったっていうか」
    「いや……お前、アンデッドだろう」
     染まったっていうか、そもそも生まれた時から意志をもたぬ不死の魔物では? 魔王軍生まれでは? 心洗われるとか、ないだろ?
     しかしがいこつAはヒュンケルが胸中のつっこみを言語化する間も無く反論してきた。
    「種族で決めつけるのどうなんですか⁉︎ 改心するアンデッドだっていたっていいじゃないですか! 多様性を認めるべきです! 令和だぞ!」
    「令和って何? おい!お前も一体……」
     がいこつAの後ろでゆらりと立ち上がったがいこつBは、ヒュンケルのその声に同じくがば、と突然顔を上げて詰め寄ってきた。カツカツと音を立ててずいと顔を近づけるその勢いに思わずヒュンケルは一歩引いた。
    「だってヒュンケル様!あの娘さんと話されたでしょう⁉︎ 話しましたよね⁉︎」
    「あっ……ああ」
     がいこつBの突然のその剣幕にヒュンケルは思わずこくりと頷いた。頷かざるをえなかった。勢いがすごい。たじろぐヒュンケルの前でがいこつBはその目をくわ、と見開いた。ような気がした。実際は頭蓋骨に空いた穴しかないので見開けるわけもないのだが、開いてると思う。
    「だったら分かるじゃないですか! あの娘さんと話していると……あの目を見ていると、なぜだか言葉が返せなくなってしまう!」
    「待て、それはオレの台詞だ」
     ヒュンケルは大事な台詞を取られてちょっと慌てた。
    「ちょう健気。めっちゃ優しい。絶対悪いのヒュンケル様だと思いますけど『私がヒュンケルを怒らせちゃったから、もう一度話したい』って言ってたんですよ」
    「……マァムが……」
      前半の部下の暴言はさておき、その言葉に思わずヒュンケルは目を瞬いた。
     さっき娘の頬を叩いてしまった手を思わず見つめる。話だと? あんな目に遭っておいて、まだ?
     あれ以上話すことなど何もない。もうオレの意思は変わらないのだ。そう決めたのだ。
     そんなヒュンケルの心中をよそに、がいこつAとBはええ〜、とそれぞれになんだか嬉しそうな声をあげた。
    「え、あの方マァムさんっていうんですか? うわー! 名前もかわいい」
    「名は体をあらわすって本当ですねえ〜。まるで、聖母だ!」
    「おいやめろ! そのセリフもオレのだ‼︎ あと、今じゃない‼︎」
     それはオレの人生における超重要シーンだ。取るな!
     きゃっきゃとはしゃぐがいこつAとBを手を振って黙らせる。
    「ええい……全く意味がわからん!そんな理由で逃したと⁉︎」
    「そうです」
    「かわいそうだから、逃しました」
    「おかしいだろ!軍紀はどうした!」
     そう一喝するヒュンケルに、しかしなぜかがいこつAはたじろぎもせずに逆にすごい剣幕で詰め寄ってきた。
    「ヒュンケル様だって、さっき牢で自分で入れたくせにわざわざ会いにきてしかも絆されてたじゃないですか! 心、動かされて逃げ出したじゃないですかぁ! マァムさんの言葉にオレ何やってんだろって思ったでしょ⁉︎ でも痛いところ突かれすぎて言い返せなくてでも今まで張ってきた意地とプライドがそれを許さず、だから咄嗟に叩いちゃったんでしょ⁉︎」
    「ぐうっ」
     部下の追求にヒュンケルは思わず胸を押さえた。本当のことすぎて痛い。痛すぎる。
     さっきだって実は玉座に座りながら、牢でのことを思い返しては延々と反省していたのだ。
     ありあまった暗黒闘気をもんもんと周囲に放出しながらの凶悪な表情に、玉座の間に報告に来たモルグは鈴のチリーンをやたらとチリンチリン早くしてため息を吐きながら去っていった。触らぬ神に祟りなしとでも思ったのだろうか。
     が、当の本人は内実は情けなくうじうじしていたのである。
     無抵抗のものに手をあげるなど、どうかしていた。しかし一時の感情で暴力までふるっておいて、どういう顔をしてもう一度牢屋を訪れればいいのか分からない。食事を持っていく、とか。いや、持っていったとして、それから何と言うんだ? 「すまなかった?」 あんな。叩いたりなんかした後に? どの面を下げて出ていくと言うんだ⁇ また話して、ましてや泣かれたりしたら今度こそ決心が鈍ってしまうかもしれない。最近、ごく最近気づいたけど、オレはひょっとして、涙に弱い?
     マァムの涙がこぼれ落ちるのを見た瞬間になぜか心の奥がものすごくずきりと痛んで、とても悪い事をした気がした。いや、悪い事なんてして当たり前なのだが。オレは魔王軍だぞ。この十五年のアイデンティティ、そんなに簡単に崩されてたまるか。オレは正義を憎む復讐の戦士ヒュンケルなのだ‼︎
     そう心中で七転八倒するヒュンケルをがいこつBが追い打ちをかけるようにぴしりと指差した。
    「あと! ほっぺた腫れちゃってたから冷やして差し上げました。かわいそうに。うちの団長はなんて事するんだ!」
    「あ、あれはっ……! ……オレが……悪かっ……た……」
    「え、声、小っっさ‼︎」
     もごもごとヒュンケルが口の中でつぶやいた声にがいこつBは素早く突っ込んできた。
    「……!オ、オレが……」
    「いや違いますよ。そんなの我々じゃなくてマァムさんに直接言うべきです!」
    「そうだそうだ!」
    「ぐううっ」
     言い直させたくせに。がいこつAとBの揃った罵声にヒュンケルは再び抉られてよろめいた。言葉のブラッディースクライド。もっともすぎる。真実が故につらい。
     しかしぐらついた姿勢を最後の意地で立て直し、ヒュンケルはがいこつたちに肝心の問題を問いただした。
    「も……もういい! マァムをどこへ逃した⁉︎」
    「そんなの、言うわけないでしょう! 絶対に喋らないぞ。オレたちのことなんてどうにでもすればいい!」
    「そうだそうだァッ。アンデッドだからちょっとバラバラにされたって痛くも痒くもないぞ!」
    「なんなんだ貴様ら!」
     軍団長ではあるが部下は傀儡のアンデッドばかりなので、部下がこんなに自分の意思を持って反抗してくるとか経験もないし考えたことすらもなかった。ていうか何で反抗してくるんだ。すごい、面倒臭い。
     ひょっとしてオレもこういう感じなのか? ヒュンケルは一瞬だけ、ちょっとだけ、ハドラーへの態度を反省した。
     しかしとにかく、こうしている場合ではない。勇者の小僧どもが攻め入ってくる前にもう一度人質を捕まえておかなければ――
     そう思って顔を上げたヒュンケルの視界のその先で。通路に開いた通風口の穴からぴょこんと桃色の髪と服の半身が飛び出した。
    「なっ……」
    「――話は全部聞かせてもらったわ!」
     通路に通る涼やかな声にがいこつAとBもその方を振り向いた。通風口から滑り出てきたその娘――マァムはしゅたんと身軽に飛び降りて、髪の毛と服のあちこちについたほこりを「やだ」とぱんぱんと払ってからすたすたと歩いてくる。がいこつ二人はあわててそれを止めようとした。
    「あーっ! 時間稼いだのにぃ!」
    「マァムさん! 隠れてなきゃだめですよ!!」
     待て。今の話全部聞いてたのか?
     ちょっと、いやかなり、ヒュンケルは動揺した。目を泳がせるヒュンケルの前でマァムはがいこつ二人ににこりと微笑んだ。その笑顔にAとBがそろってほわわわ、と幸せそうな空気を醸し出す。
    「いいのよ。やっぱり、あなたたちが追求されることになってしまうのは嫌。私、ヒュンケルに会いたかっただけだもの」
    「…………。……人質が、自ら戻ってくるとはいい度胸だな」
     精一杯の威厳で唇を吊り上げてみたヒュンケルの横でがいこつAとBはそれぞれに首をふるふると振ってため息をついた。
    「今更それっぽいこと言ってもダメじゃない? 全部聞かれてましたよ?」
    「いい加減、素直になれよお」
    「貴様ら、黙れぇッ!!」
    「黙るのはヒュンケル様ですよぉっ!」
    「いいからマァムさんの話を聞いて! 対話を!」
     ぎゃあぎゃあとヒュンケルとがいこつたちが言い合うその薄暗い通路に、とつぜんチリリ〜ンと鈴の音が響く。
     ばっと全員が振り向く通路のその先に、エプロンをつけたモルグが鈴を構えて立っていた。
    「ヒュンケル様……女性の前で、怒鳴り声など感心しませんな」
    「ほんっとですよね」
    「さんざん怒鳴ってたけどね」
    「うるさい!……モルグ、何の用だ」
     がいこつAとBの茶々に眉をぎりぎりと吊り上げるヒュンケルに、モルグは特にその表情に構うことなく穏やかに続けた。
    「……お部屋にお茶の用意をしました。少し温かいものをお召し上がりになっては。何やらお話があるのでしょう? このようなところで話しても埒が空きますまい。……そちらのお嬢さんも、ご一緒にいかがでしょう」
     モルグのその提案に、目を丸くするヒュンケルとマァムの後ろでがいこつAとBは揃って拍手をし歓声を上げた。
    「モルグさーん!」
    「さすが、展開分かってるう!」
    「だから黙れっっっ!!!」
    「ヒュンケル。そんな言い方しないであげて。あのひとたち、私があなたに会えるようにって色々相談にのってくれたのよ。あなたは……私となんか、もう。話したくないかもしれないけど」
    「……いや……」
     最後にすこしさみしそうに俯いたマァムに、ヒュンケルの心臓はどきいんと跳ねた。ざわざわする、落ち着かない。この感情はなんだ。
     なんと言っていいか分からずしばらくぱくぱくと口を開けたり閉じたりしてから、いや、とヒュンケルは腹を括った。がいこつどもに腹は立つが、言っていることは正論。命(不死だが?)をかけてまで娘と合わせようとした。その心意気くらいは汲んでやるのが部下を束ねるものの器であろう。
    「……その……さっきは。……すまなかった。もう一度……話を聞こう」
     腹は括ったが声はちょっと心なしか小さくなった。目も合わせられなかった。
     「おおっ」と盛り上がるがいこつどもを後ろに、その小さな声はしかしマァムに伝わったようで、横目で捉えたマァムの顔がぱあと花開くように綻んだ。
    「――よかった!」
     嬉しそうに笑うマァムのその顔にヒュンケルの心臓はぎゅううううと掴まれた。
     やばい。かわいい。
     ばくばくと跳ねまわる心臓を服の上からぎゅうと掴んで必死に止めた。いや止めたら死ぬから止めないけど。初めての感情にどうしていいか分からない。ずっと見ていると恋しちゃいそうだった。いや恋? 今オレは恋って言った? 違う、これは、その。
    「いや恋だって」
    「認めたら楽になるぞお!」
     きょとんとするマァムの横で鬼のような顔で振り返るヒュンケルをものともせず、がいこつAとBは揃って囃し立てた。
    「お幸せにな〜っ!」
    「……!!」
    「怒らないであげて、ヒュンケル」
     憤然としたヒュンケルの横でマァムがその服の裾を引っ張った。ばっと振り向くヒュンケルのその顔を見上げたマァムの頬もちょっと赤い。
     え?それって??
     
    「……行きましょうか」
     頬を染めて見つめ合う二人の前で。
     チリリ〜〜ン、と地下の城の通路に、モルグの鳴らす鈴の音が響いたのだった。



     完
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