キッチンでの二人 船内のどこからか名前を呼ぶ声が聞こえてくる。やがてそれは床が軋む音と共にキッチンの扉を開けた。
「サンジー!メシだ、メシ!」
歯をちらつかせながら開口一番に告げるのは飯のこと。これはまぁいつものことだからとキッチンの主は少しだけ眉を寄せただけにとどめる。どこから嗅ぎつけたのか、キッチンにはスパイスのいい香りが漂っていた。
机の上に置かれている肉の存在に気づいたのか、メシー!と嬉々しながら皿に伸びてきた手をはたき落とす。
「まだ料理の途中だ、クソゴム」
この船を束ねる船長でもある男は痛みに声をあげながら能力で伸ばしていた腕を元の長さに縮ませる。
痛そうではあるが、自業自得であると断罪してサンジは再び手元へと目線を戻す。あとは特製のソースを作れば完成だとフライパンに手を伸ばそうとすれば、いつの間に移動してきたのか先ほどまで痛みに声をあげていたルフィが覗き込むように立っている。
「いくら見てこようが、まだ食わせねえからな」
そう言ってやれば、ぎくりと肩が揺れる。見つめてでもいればこちらが折れるとでも思ったのか。しかし先ほどと違い、邪魔をしてくる訳でもないのでサンジはそのまま調理を再開する。しばらくすれば再びルフィから声がかかる。
「…なぁサンジ」
「ダメだ」
「まだ何も言ってねぇ!」
ただ名前を呼んだだけだと隣に叫ぶルフィだったが、サンジには顔を向けずともお見通しだった。素直に少しだけ分けてほしいとでも言えば考えなくも…いや、これは夕飯になる予定の料理だ。ルフィに少しだけでも分けてしまえば、何だかんだと甘い自分は理由をつけて食べさせてしまうだろう。そのことをサンジはこれまでに何度も思い知らされている。
しばらくすれば観念したのか、大人しく隣に立ったまま特に催促をしてくることもない。それでも腹の虫は黙っていられないのか、サンジの隣で音を上げる。すると慌てた様子で腹を押さえるルフィにくつくつと笑いつつ、手を上げてがしがしと頭を撫でる。
「あと少しだけ待ってろ。そしたらいくらでも食わせてやるから」
サンジのその言葉に嬉しそうに頬を緩めた後、にっこりと笑顔を浮かべる。そして再びフライパンへと手を伸ばすサンジに寄り添うように立つのだった。