『甘くて、幸せな時間』イサミはそれなりに自炊はしていた。
それがブレイバーンと出逢ってからというものの、2人で料理を作る楽しさや
自分が作った料理を食べてもらって「美味しい」と笑ってもらえる嬉しさ
そんなくすぐったいくらいに甘い幸せを知った2人が料理にのめり込むのは早かった。
ブレイバーンも向上心が強く、
「もっとイサミの為に美味しい料理を作りたいんだ」と趣味と実益を兼ねてお料理チャンネルを開設したのだ。
ブレイバーンの狙い通り、2人がまだ知らない美味しいお店の話を知ることができたり、知らない料理の数々に挑戦するのはとても楽い。
「……よし」
ブレイバーンが生配信用のカメラをセットし、頷く。
「今日は何を作るんだブレイバーン?」
配信が始まっていない時のイサミは無防備で、柔らかくブレイバーンに微笑む。
「今日は、キャラクター弁当だ」
「可愛いな」
「私とイサミをデフォルメしたんだ」
ブレイバーンの言う通り、小さなブレイバーンとイサミが仲良く寄り添うような図案が描かれていて、作って食べる前から可愛いらしいそれを食べてしまうのがもったいないと思うほどだった。
「そうだイサミ、いつものをしような」
「これ、必要か?」
ブレイバーンがイサミの左手を優しく包むと薬指、人差し指、親指に絆創膏を貼る。
「必要だとも、イサミ。
君が怪我をしないように私からのおまじないだ」
イサミの指に貼られた絆創膏にそっと、ブレイバーンが魔法をかけるようにキスを贈る。
指先からぽかぽかとした暖かいものがイサミの中で膨らむようにして、満たされる。
「それに、指輪には付ける位置で意味があるんだ。
薬指には、愛と絆を深め、相手の心を掴みたいという意味。
人差し指には、積極性を高め、ポジティブになるという意味。
親指には、思いを実現させ、逆境を跳ね返すという意味。
これからもイサミとこうして、愛と絆を深め、積極的に楽しく毎日同じ食事を共にしたいんだ」
「指輪って……」
ブレイバーンが丁寧に巻いてくれた絆創膏をそっと撫でる。
『お互いに忙しかったり、食事を作るのも食事をするのも面倒な時もあるだろう。
だからこそ機械的に食べるのではなく、2人で楽しく作って、食べたいのだ』と語るブレイバーンは、エメラルドの瞳を輝かせ真っ直ぐにイサミの瞳を見つめる。
「……俺も、そうしたい。」
「ありがとう、イサミ」
お互いを抱くように、包むようにぎゅっと抱きしめる。
イサミは、甘いリンゴの香りがするブレイバーンの服にほんの少し、鼻先を埋めるようにして香りを堪能し、ゆっくりと離れる
ブレイバーンは、イサミの首筋から香る石鹸の香りに目を細めるようにして笑いながら、ゆっくりと離れる。
「……あ、配信、始まってる」
赤い配信開始ランプと目が合い、イサミの顔も真っ赤になる。
「しまった!私とイサミのイチャイチャラブラブシーンが全世界中にッ!」
ブレイバーンが慌てて配信画面を確認するが、時既に遅く
"ブレイサ結婚"
"ブレイサへご祝儀"
などなど、赤い1万円のスーパーチャットが止まらない。
「ありがとう皆!だが、今のは忘れて欲しい!
今日の配信はここまでだ!」
ブレイバーンの彫刻のような顔にも耳まで赤い朱色の花が咲いていた様子が全世界に配信されてしまう。
急いで配信したものを削除するが、1度ネットの海に配信されてしまった出来事は一生残ってしまうだろう。
「イサミ、すまない。
こんな筈ではなかったんだ」
恥ずかしい。
2人で隠れてイチャイチャするノリでそのまま全世界に向かってしてしまったのだから。
「……見たきゃ見せれば良いんだよ」
「イサミッ!?」
「今更だろ?」
思い出せば、カメラの死角でお互いにあ~んと味見していたのもずいぶん前から視聴者にも察せられていたのだ。
こうなってしまえばもう怖いものなどない。
むしろ、見せたら良いのだ。
イサミは、強い。
どこまでも真っ直ぐに飛べる。
そんなイサミがブレイバーンも大好きなのだ。
「そうだな、私達は何も変わらなくて良いのだな」
「ん」
イサミは、上司にも視聴者にも皆平等なのだ。
上下関係すらなく、皆を守りたい。
そんなイサミの特別として、隣に共に立てる幸せにブレイバーンの頬も緩む。
「配信、再開するぞ、ブレイバーン」
まだ配信時間は残っている。
「ああ、始めようイサミ」
2人で甘くて美味しい、幸せを作る時間を。