『出家未亡人イサを迎えに来る怪異ブレさんでハッピーエンド』ブレイバーンが世界を救って消えてしまった。
アオ・イサミの心にはぽっかりと大穴が空いていた。
(ああ、俺はあいつのこと、こんなにも大好きだったんだな。
こんなことなら、キスの1つでもすれば良かった。
身体を許し、不可能を可能にしてくれるあいつの忘れ形見が欲しかった。)
「本当に行くのか、イサミ」
「はい、今までありがとうございました」
サタケ隊長や親しい仲間達に見送られ
寂しくなった頭をふと撫で、出家する。
この心も身体もブレイバーンにしか許したくない。
なのに人間の頭は、身体は残酷だ。
1秒、1秒と時計の秒針が進む度に
緑の粒子と共に消えてしまったブレイバーンのように俺の頭の中から、心の中からブレイバーンの声が、姿が、コックピットの匂いが消えてしまう。
頭がその記憶を整理しようと、夢で叶わなかったブレイバーンとの淫夢を見せ
パンツの中に欲望を吐き出してしまう。
……だから、出家した。
欲望を捨て、裸の心でブレイバーンをまた感じたかった。
寺での生活は良かった。
朝日と共に起き、月光と共に眠る。
頬を撫でる風に
大地を踏みしめる土に
ブレイバーンを感じられた。
瞑想をすればコックピットの中に入った時の安心感を思い出せた。
そんなある日の夜。
『……イサミ』
俺は、ブレイバーンの声で目が覚めた。
俺が、この俺があいつの声を間違える筈がない。
戸を開け放つと、黒い影に押し倒された
『イサミ、イサミィ』
「ブレイバーン、ブレイバーンなんだな」
月夜に照らされた赤い体毛は、海に墜落して濡れたようにしっとりとしていた。
あのコックピットの匂い。
ブレイバーンの声が鮮やかに甦り
間違いなく、これはブレイバーンだと俺の魂を叫ばせる。
『イサミ、イサミ、逢いたかった』
「俺も、お前に逢いたかった」
抱きしめたブレイバーンの身体は涙が出そうな程に暖かく、鋼鉄のあの身体を思い出せる程に硬かった
『イサミ、私と一緒に行こうイサミ』
「行く、どこにでも、どこにだってブレイバーンと一緒に」
翌朝、アオ・イサミは消え
その日の夜から、獣が叫ぶような声が夜な夜な聞こえるという。
オ"ォ"ォ"ォ"♡!オ"ォ"ォ"♡!
ブレイバーン!ブレイバーン!
イサミ、イサミ、イサミィィィ!!!
艶やかで嬉しそうな2匹の獣の声がいつまでもいつまでも夜になれば響きましたとさ。