『囚われの君』銀河の上を歩くように軽やかにブレイバーンは歩く。
赤に緑の粒子が混じる髪を靡かせ、まるで角のように凛々しい金色の眉。
ギリシャ彫刻のように現実味の無い美しい顔と、衣服の上からでもわかる肉体美は、誰もを魅了するが、ブレイバーンは足を止めることなく真っ直ぐに歩く。
「今回のテーマは人形についてか」
ブレイバーンは小説家だ。
SF作品を得意とし、多くのユニバースを産み出していた。
人形
オートマター
自らの意思で動くもの
脳内で情報を整理し、歩きながら物語の世界に自らの意思で会いに行く。
そうして、自宅でその情報をパソコンの原稿用紙にまとめる。
それがブレイバーンの執筆スタイルだった。
ブレイバーンは真っ直ぐに歩く。
目的地は、人形店。
自らの意思で動く生きた人形達が待つ
プランツ・ドールと呼ばれる、少年・少女の姿をした生きる芸術作品。
波長のあう人間に出会えるまで眠り、持ち主となる人物以外には見向きもしない
必要なものは、専用のミルクと砂糖菓子
それと、大好きな人間の愛情。
ドクン。と胸が高鳴る。
逢える。逢いたい。逢いたい!
大好きな私の光に……□□□に!
ブレイバーンの足取りは、1歩、1歩と飛ぶように大きく跳ねるように走り出す
□□□!□□□!
口に出せば全て思い出せそうで、
あと少しで思い出せない苦しさと、切なさが入り交じった心の叫びが高鳴る心臓のようにドクン、ドクンとその3文字の尊い名前を叫ぼうとする。
「イ……イサミ……」
導かれるようにして入った日の光を遮るように薄暗い店内で、ガラスのショーケースの中にちょこんとソファーの上に座る黒髪の少年を見た瞬間、ブレイバーンは全てを思い出した。
自身がロボットで、イサミと共に世界を救い、
イサミと共に様々な世界へと旅して出逢いを繰り返していたことを
そうして、ブレイバーンが名前を呼べばかつて自身がそうだったように
イサミの閉じられた瞼がゆっくりと開きブレイバーンと同じ色を灯した緑の瞳がキラキラと輝き、ふわふわとブレイバーンを夢中にさせる笑みで微笑んだ。
「ぶれいばーん」
「イサミッ!」
「ぶれいばーん」
「イサミッ!逢いたかった!ずっとずっと逢いたかったんだイサミッ!」
ブレイバーンが両手を差し出せば、あの日のようにガラスのショーケースをゆっくりと自ら開けたイサミがコックピットに乗るようにふわりと美しくも格好いいドレスを翻し、胸の中に収まってくれた。
「イサミ、イサミ、イサミ、また逢えて良かった」
「おれも、ぶれいばーんにあいたかった
きてくれるってしんじてた」
一生懸命に話そうとしてくれるイサミが愛しくて、愛しくて、ブレイバーンはふわふわと笑うイサミの唇に自身の唇を合わせる。
「ぁ……ぶれいばーん……ッ」
「イサミ」
頭の中で言葉が溢れて止まらないが、言葉になるのは、お互いの名前だけだった
ブレイバーンは、イサミを大切に腕に抱え店から出る。
「おれ……たかかっただろ」
「なに、イサミとまた暮らせるなら安いものだ」
プランツ・ドールは生きた芸術作品。
人によっては自らの財の全てを投げ売ってでも世界でたった1つのドールを手に入れようとする。
しかし、人間がいくら切望しようとも主導権はドールにある。
ドールが主人を自らの意思と足で選ぶのだ。
それがお互いに嬉しかった。
「イサミ、また私の話を聞いてくれるだろうか?」
「ぶれいばーんのはなし、ききたい」
プランツ・ドールに必要なものは、1日3回のミルクと週に1つの砂糖菓子。
それと、愛情。
ブレイバーンは語る。
溢れて止まないイサミへの愛を。
そんなブレイバーンからの愛情たっぷりの話を聞いたイサミは、頬に薔薇のように美しい花を咲かせ、ふわふわと笑っていつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。