『息子さんを私にください!』『イサミ、どちらの服がふさわしいだろうか?』
9mのロボット、ブレイバーンがフリフリの白いウェディングドレスと白無垢、さらにはタキシードまで手に持ち代わる代わる胸に当てる姿は、いじらしくもちょっとだけ可愛いと思ってしまう
「タキシードはわかるが、ウェディングドレスと白無垢はなんでだ?」
『良い質問だイサミ!ブレイブポイント1を進呈しよう!
ちなみに1ブレイブポイントごとに私からのキスを「それは"今は"いらねえ」……そうか』
それは夜に欲しい。
こっちも我慢ができなるなることは、目に見えているのだから断るのは当たり前だろ、とションボリと角を下げているようにも見えるブレイバーンに笑ってしまう。
『つまり、"今"でなければ良いんだなイサミィ!』
「……まぁ、そういうことだ」
ジェットコースターのように自分の言葉一つで乱高下するブレイバーンにくつくつと笑ってしまう。
ああ、本当にこいつは俺を笑わせる天才だ。
「……んで?」
いつまでもブレイバーンと"夫婦"漫才をするのも悪くはないが
「本題に戻ろうな」と、操縦桿を握るように進行方向に戻してやる。
『そう!イサミのご両親とその兄上にご挨拶する際に、私が一目でイサミに染まり従順に従う善き隣人であることをわかってもらうには、この服装も良いと思ったんだ!
それに、似合うだろイサミ?』
「まぁ、似合うな」
(そもそも、お前に似合わない服なんてこの世界にあるのか?)と思うほどにはブレイバーンは、なんでも似合う。
『それに雄は派手な方が良いと聞いた』
もしかしてお前、孔雀にでも聞いたのか
ブレイバーンの場合、飛翔というよりはホバリングや、滑空の方が正しいから間違いではないのかもしれない。
そもそもの既存の枠に囚われない所が好きなので、このままこいつは泳がせておこうと
さらに面白くなりそうなブレイバーンに頬が緩むのが止められない。
『それで、イサミはどれが好みなんだ』
「……兄さんは、なんか勘違いしてそうだからそっち」
『やはりイサミならこちらを選ぶと思っていたんだ!
ありがとうイサミ!』
「そうか」
フリフリの白いウェディングドレスを纏うブレイバーンは、金色の角がティアラのようにも見える。
本当に、なんでも似合うなこいつ
『良し!ご両親とお兄様にご挨拶をしに行こうイサミ!』
ブレデレラ(ブレイバーン+シンデレラ)は、魔女もカボチャの馬車も、白馬も兼任してくれる。
「行こう、ブレイバーン」
唯一ブレデレラの違う所は、勇気と愛の魔法は解けずに増すばかりといったところだろう。
『ここがイサミの産まれ育った家!』
「ちょっと待ってろ」
ひらりとブレイバーンが用意した王子様衣裳を翻し、住み慣れた我が家に入る
「ただいま」
「お帰りイサミ!来たのか!我が家にバン、キュッ、バンなナイスバディの美人さんが!!!」
ただいまの"ま"の部分で突撃して来た兄に苦笑する。
「外にな、母さん達は?」
「縁側にいるぞ?」
「ならこっちだ、あいつデカイからこっちからは入れねえんだよ」
「???」
宇宙猫になった兄を連れて、縁側にたどり着く
「母さん、父さん、ただいま」
「あら、お帰りなさいイサちゃん
噂のレイちゃんはご一緒じゃないの?」
「お帰り、イサミ」
にこにこと変わらずに笑う母と、言葉少ないが穏やかな父に安堵する。
「それでイサミ、バン、キュッ、バンの美人さんはいずこに!?」
「今、呼ぶから……ブレイバーン!」
『こんな場所から失礼します!
私、ブレイバーンと申します
イサミさんのお母様、お父様、そしてお兄様、初めまして』
ポカーンとする両親と兄に笑いが止まらない。
『……イサミ、私はまた何か間違えただろうか』
グルグルとリーディングをし続ける家族「いや、バッチリだ」
「……本当に美人さんねレイちゃんは」
一番早く事態を呑み込めたのは母さんだった。
「そうだな、うん、さすがイサミが連れて来た人……ロボットだな」
父さんもコクリと頷く
「……確かに、バン、キュッ、バンだなイサミ」
そして、まだそれを諦めていなかったのか兄さん。
『改めて初めてましてだ、イサミのお母様、お父様、お兄様
これは、イサミと話て選んだお土産ですどうぞ受け取ってください』
「ありがとうねレイちゃん」
『イサミのお母様、お父様、そしてお兄様!
私にイサミさんを……息子さんをください!』
「良いわよ」
「イサミが良いなら私からは何もない」
「よろしくな、ブレイバーンさん」
こうしてあっさりと、アオ家に受け入れられたブレイバーンであった。
ま、俺の"家族"だしな。
「良かったらイサちゃんの小さい頃の写真見て行きなさいなレイちゃん」
『イサミ!イサミが小さい!
小さいイサミも可愛いらしぃぃ♡!』
「イサミの運動会の映像も見て行きなさい」
『イサミ!この時からイサミは頑張り屋なんだなぁぁ♡!!!』
エメラルドの瞳をハートマークにしながらまだ見ぬ俺に夢中になるブレイバーンも微笑ましい
「な、なぁ、ブレイバーンさん
あんたの友達にボン、キュッ、ボンな人はいないのか?
紹介してくれよ」
「兄さん、あんたも知ってるだろうが残念ながら今も陸自は男所帯だよ」
「だよなー」
そして、別れ
『ありがとうイサミのお母さん、お父さん、お兄さん!』
すっかりアオ家に馴染み
本当に家族になったブレイバーンと手を振る
「また帰ってくるな母さん、父さん、兄さん」
「レイちゃんもイサちゃんに何かされたらいつでもうちにおいでねー!」
『ありがとうお母さん!』
「次に来るまでにまだ見ていないビデオをダビングしといてやるからな」
『ありがとうお父さん!』
「また遊びに来てくれなブレイバーンさん!」
『また遊ぼうお兄さん!』
帰り道は凄く静かに感じた
あれだけうちが騒がしいのも久しぶりだ。
運動会くらいだろう。
本当にブレイバーンが来てからは騒がしい。
……でも、それが楽しいと感じられるようになったのはブレイバーンがいるからだ。
ブレイバーンと静かに寄り添うのも変わらずに好きだが
「これからもよろしくなブレイバーン」
『ああ、必ず二人で幸せになろうなイサミ』
「とりあえず、今日は外泊するか
……取ってるんだろ外泊証?」
『もちろんだイサミ!
取得しすぎて10枚綴りでもらえてしまった』
「肩たたき券でも、もう少し希少性があるだろ
お前、どんだけもらいに行ってるんだよ」
『毎日だ』
「そりゃあ、それだけもらえる筈だ」と二人で笑う。
ああ、本当にお前が来てからは笑いが絶えない毎日が愛おしい。