『猛烈バーンアタック』 30歳で童貞だと魔法使いになるらしい。
そして、40歳で童貞だと妖精になるらしい。
「イサミ、君のことが大好きだ。
結婚を前提にお付き合いをしてほしい」
太陽のように燃える赤、エメラルドに輝く瞳、まるでギリシャ彫刻のように彫りが深いハンサム男子高校生に突如として猛烈に求婚されれば誰だって困惑して、年齢による幻覚や幻聴を疑ってみたくもなるだろう。
あまりの衝撃に落としかけそうになる花を抱き抱え直す。
「待ってくれ、俺は40だぞ?
……アラフォーだぞ?正気か?」
「知っているとも、その年月がますますイサミの魅力を高めていることも
そして、私はいつだって正気でイサミのことが大好きなんだ!」
睫毛長いな…いい匂い……じゃねぇ!
「近けぇ!近けぇよ!」
あと一歩、ハンサム男子高校生が足を踏み出せばキスをしてしまいそうになる距離に思わず正気になって、肩を押してその場に押しとどめる。
「……その制服、ATF高校だろ?
……ってことは、お前……何歳だよ」
イサミも見覚えのある懐かしの制服に眉間を抑え、はたして自分があの制服を着ていた時は何歳だったかと記憶を探る。
「18歳だ。そして、今日卒業証書を授与された。
大学はATF大学に進学予定だ」
聞いていない情報の雨嵐に頭の奥が痛くなる。
「さぁ、見てくれイサミ」と差し出された卒業証書を受け取り初めて、目の前のハンサム男子高校生の名前がバーン・ブレイバーンだと知るのだから、なにもかも手順や順番がおかしな存在にますます頭が痛くなる。
「本当なら、私が18歳になると同時に求婚をしたかったのだが
イサミのことだろうから、高校を卒業しなければ受けてくれないだろうと思ったんだ」
そこまで俺のことを分かってくれるのならこんなこと言わないだいだろう、と言いたくなる。
「あのな、俺は40なんだよ、ついでに言うなら今年で41だ」
「私は19になるな」
リンゴのように艶やかで赤い頬で言うブレイバーンにますます頭が痛くなる。
「年齢が倍違うだろうが」
「それが何の障害になると?
先ほども言ったようにそれはイサミの素晴らしさがますます高まるだけで私としてはいっこうに構わないとも!」
「俺が構うんだよ!俺の年齢のやつが持つのはお前のような年齢の子供なんだよ!」
「私が希望するのはイサミの恋人の座であって、子供ではないな」
子供だと思って相対していたら、どろりと重いブレイバーンの視線に動けなくなる。
「ブレイバーンよ、次の予定時刻を5分オーバーしておる」
「あぁ、すまないなスペルビア。
……というわけで、イサミともっとお話をしたいが今日はこの辺りにしておこう
次に私が来る時まで考えていてくれイサミ」
「いや、ちょっと待て」という隙もなく、黒のリムジンと共に消えてしまったブレイバーンを見送る。
「……ぁ、あいつの卒業証書……」
イサミの手の中にこれは夢ではないと、証明するかのようだった。
寝ても覚めても、誰か一人のことをこんなにも考えることがかつてあっただろうか。
それでも身体は長年そう仕えてきた作業用ロボットのように花の手入れをしているのだから不思議だ。
「イサミ」
頭の全てをもって行ってしまった存在の登場にほっと安堵する。
このまま頭の中をかき乱すだけかき乱されたままだったなら、きっと年甲斐もなくブレイバーンを探して地球の裏だろうが月だろうとも探しに行っていただろうから。
「来たか」
「それで考えてくれただろうかイサミ?」
ずっとブレイバーンの大好きが脳内に溢れて止まらず思考がまとまらないというのに、そう簡単に答えが出たら困らないだろう。
「……そうだな、まだ私の提案に乗る判断材料が少ないのだろうから
今から私とデートをしてくれないだろうかイサミ?」
そうだな、このままじゃ仕事に身が入らない。と頷きブレイバーンの手を取る。
早々に店じまいにして、ブレイバーンに手を繋がれて連れられた先は生け花展だった。
「なんか、意外だな……」
「イサミに相応しい男になる為に色々と勉強して来たからな……こっちだイサミ」
真っ直ぐに進むブレイバーンに合わせるようにして、他の作品には目もくれる暇もなくその作品の前に立つ。
赤と白の燃えるような花、それをまとめる黄色。
動と静が合わさり一体となった生け花に魅了された。
タイトルが【愛する人へ】ということにも目を奪われてしまった。
「イサミを想って作ったんだ」
「……お前、いつから俺のことが好きなんだよ」
ブレイバーンの熱い眼差しにイサミの身体も火照るように熱くなり、それを聞かずにはいられなくなった。
「私が産まれたその日から」
真剣なブレイバーンのエメラルドの瞳に、遠い過去の記憶が蘇った。
9mの巨大ロボットのブレイバーン。
ブレイフラワー過去最大の注文で訪れた病院の出産祝いで出会ったちいさなブレイバーン。
ブレイバーンとイサミは出会うべくして出会うようにしてくれているらしい。
本当にこいつは人理の外側にいるな。と苦笑する。
「それで、イサミ、君の応答が聞きたいんだ……私に乗ってくれるかイサミ?」
「乗るよお前に」
両手を繋ぎブレイバーンを抱きしめ、イサミも抱きしめられる。
どんな形であろうともずっとお前に乗り続けると誓おう。何度でも。