星にやさしく歌うよる☆せつめい
ミラとダーちゃんが管理局で同僚やってた時代のお話です。
・ミラ:海の星からやってきた。大体いつもにこにこしている。ヒレとしっぽが生えていてくじらみたいなところが少しある。きらきらでかわいいダーちゃんのことが好き。
・ダーちゃん:はらぺこツンツンちゃん。管理局に来る前のことはあまり話さない。がうがう鳴いてトラチャンみたいなところが少しある。何を考えているのかよくわからないミラのことが苦手。
(読まなくてもたぶん大丈夫な補足説明)
*うちゅ~じん:星のちから(魔力みたいなふしぎなちから)が強かったら星を操れたり色々なことができる。
*宇宙飛行物管理局:うちゅ~の飛行物(飛び回る彗星の沈静化や宇宙船の事故処理、飛行物や星の調査など)に関わる仕事をしているところ。
☆星にやさしく歌うよる
宇宙飛行物管理局のこの二人乗りの小型宇宙船内はいつも明るい。なぜなら俺の同僚のダーちゃんは暗闇が苦手だからだ。理由は教えてくれないから詳しいことは知らないけれど。この前好奇心でこっそりすべての灯りを消してみようとしたらひどく怒られ、噛まれ、暴れられた。それからダーちゃんは寝る時も近くに自分の小さな星を灯している。
「ダーちゃん、もう寝るの?」
「ん」
「心配しなくても消したりしないよ」
「お前の言うことなんか信じられるか」
たった一度の出来事なのに俺の信用はひどく失われたようだ。ダーちゃんは小動物のような見た目通りに警戒心が強い。そしてそのへんの小動物よりもちょろいのでおいしいご飯を与えれば機嫌は治る、が。機嫌と信用はまた別だ。どうにか失った信用を取り戻せないだろうか、と考え一つの案が思い浮かんだ。
「そうだ、子守唄でも歌おうか」
「歌?お前が?」
「意外と得意なんだぜ」
「全然イメージないな……。っていうか子守唄って、何だお前、馬鹿にしてるのか」
「いいから、ほら」
がうがうと文句を言うダーちゃんを無理やりふかふかのベッドに押し込んだ。別に歌は好きではなかったが、ダーちゃんのためなら久しぶりに歌うことも悪くないと思った。ダーちゃんの威嚇を軽く受け流しながらベッドの傍の椅子に腰かける。船内の照明を少しだけ薄暗くし、ダーちゃんを安心させるために手元に小さな青い星を灯した。一呼吸おいて、長らく歌っていなかった歌を口ずさむ。
「……」
ダーちゃんの怪訝な表情が驚いたような表情へと変わった。故郷を出てから歌なんて歌っていなかったから、もしかしたら忘れているかもしれないと少しは期待していたが、そんなことはなく滑らかにメロディーは紡がれていく。水の中。こもったような、澄んだような、流れるような響き。嫌でも故郷を思い出したが、ダーちゃんの瞼がゆるゆると重たくなっていくのを見て昔のことはどうでもよくなった。ゆらゆら揺れる波のように静かにやさしく歌は流れる。ダーちゃんを海の中へと連れて行くように。ダーちゃんの全部を、この歌で包み込んでしまえたら。このまま、ダーちゃんの心の奥の深いところにまで浸透していけるように。そう願いながら、しばらくそのまま歌い続けていると、ダーちゃんの瞼は閉じられていた。
「……眠れたかな」
ダーちゃんからの返事はなく、ただゆっくりとした静かな呼吸だけが聞こえる。いつものツンとした表情ではない、穏やかで無垢な寝顔だ。思わずその柔らかそうな頬に触れたくなったが、ここで起こしてしまっては台無しだ。
「おやすみ、ダーちゃん」
こみ上げてきた、嬉しいような、苦しいような、あたたかく柔らかいような、生ぬるくどろりとしたような感情を押さえ付けて、静かにダーちゃんの傍から離れた。小さな青い星の光がダーちゃんの輪郭をそっと照らしていた。
「……おい、おい」
「起きろ、任務の連絡来てるぞ」
ダーちゃんの声で目が覚めた。あれから作業をしているうちにどうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「……ん、…おはよ、ダーちゃん」
「遅い」
「昨日はよく眠れた?」
「……まあ、……ちょっと変な夢だったけど」
「夢?どんな?」
「魚とかクジラに海の中みたいなところに連れて行かれて…行ったことないのに、すごいリアルだった」
「え」
思わず顔がにやけた。まさか、本当にダーちゃんの夢の中に干渉してしまうなんて。
「何だその顔……って、もしかしてあの歌、なんかお前の変な力だったのか……!?」
「いやいや、違うよ」
シャーッとかわいく威嚇されたが誤解されては困ると慌てて首を振った。本当にそんな力はない、はずだ。
「なんなら、今日も歌ってあげようか」
そう言うと、照れ隠しなのか「いいから早く準備しろ」と吠えられた。
(おわり)