長編 壱 それは一つの予兆であったのかもしれない。
「異能者連続殺人事件、ですか」
その報告を受けて坂口は眉間を揉んだ。あれこれと次から次と舞い降りてくる案件に唯でさえ追われているというのにまたぞろ面倒な問題が舞い込んできたものだとため息を吐きたくなる。そうは言っても内容を確認してみれば後回しにするには、些かどころではないもので頭を抱えるしかない。
ここ一月程、異能者が殺される事件が頻発しており、それが表立って問題になっていないのはその殺された異能者達が所謂犯罪者であるからだ。それも、異能を使用した質の悪い犯罪者ばかりで、市警が手を拱いて居たような者たち。逆に言えば、殺されているのはそんな凶悪犯一歩手前の人間達のみなのだ。一層のこと放置したほうが世間の平和は守られるのではと、思わず思ってしまうような顔ぶれだからと言ってそれを本当に放置して良いはずがない。ここは法治国家であり、まかり間違っても犯罪者であるからと言っても私刑で殺人を犯して良いはずがないのだ。
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