幼馴染と愉快な仲間たち 高校の入学式で席が隣だった本多と七ツ森と知り合い、違うクラスながら友達になった。後に二人は俺の幼馴染であるあいつとも校内で知り合ったらしく、それなら四人で学食へ行こうかと話になり、二年生になってすぐのある日、あいつを誘って初めて四人で学食へ行った。
「びっくりしちゃった、玲太くんも本多くんと七ツ森くんと友達だったなんて」
俺がクラスもバイトも違う本多と七ツ森と友達だったことにあいつは驚いていたが、俺よりあいつの方が二人と知り合いな方がどう考えても驚きだと思うのだが。改めてあいつの吸引力を感じる。
「いつ知り合ったの?」
あいつは俺たちがいつから知り合いなのか聞いて来た。そう言えば、あいつに本多と七ツ森と出会った時のことをまだ話していなかったことに気づき、その時のことを話した。
「入学式でこいつらと席が隣だったんだよ」
「そそ、リョウくんとミーくんと三人で騒いで、静かにしなさいって、先生に怒られちゃったんだよね」
「主にダーホンのせいでな。……つか、ダーホン、その呼び方なんとかしろ」
「ミーくんはミーくんでしょ」
「ふふっ、入学式からみんな仲いいんだね」
「ああ、入学式からこいつらそんな感じでさ」
俺の両隣で言い合う本多と七ツ森を向かいに座るあいつと一緒に笑う。二人と知り合ってからもう一年程になるが、最初からずっとこんな調子で本当に変わらないなと思う。それに、俺の家が色々特殊で、向こうの生活が長かったために他人から興味を持たれやすくても、七ツ森は余計な詮索はしてこないし、本多は元々そういうんじゃないから一緒にいて楽ではある。
「あっ、入学式と言えば、リョウくん楽しそうに笑って君のこと見てた」
「えっ?」
「本多!」
そうだ、入学式の時、本多に話しかけられたのはこれがきっかけだった。式が始まる前、体育館で真面目な顔して座っているあいつを見ていたところを隣に座っていた本多に気づかれたのだ。
「へー、入学式の時もカザマ、彼女のこと見てたのか」
あれは七ツ森が来る前のことだったので、この話は七ツ森も初耳なはずだが、何ら驚く様子はなく、むしろ納得しているようだ。
「やのサンがカザマのことすぐに顔に出る人だって言ってたの納得だわ」
「うんうん。リョウくんも最初に会った時から変わってないね」
「うるせぇよ」
どういうわけか、あいつのことは二人にすぐにバレてしまい、あいつのことでニヤニヤ笑われるようになった。そう言えば、柊にもそんなことを言われたし、俺ってそんなに分かりやすいのか……?
「玲太くん、入学式の時にわたしのこと見てたの?」
「えっ、あ、ああ……」
「もう、ちゃんと前向いてなきゃダメだよ」
「ああ、そうですね……」
周囲に分かりやすいと言われる割に、当のあいつ本人には全く気づかれていないのだが。はぁ……と溜息が出る。
「ザンネン、彼女はお気づきじゃないっぽい」
「ドンマイ、リョウくん」
「うるせぇよ」
俺の気持ちに気づかないどころか、俺たち三人の様子を見て、あいつは相変わらず楽しそうに笑っている。
「ふふっ、でも、いいなぁ」
「何がだよ?」
「わたしも男の子だったら、そんなふうにみんなと仲良くなれたのかなぁって」
と、あいつはまた突拍子もないことを言い出す。
「へぇ、君が男の子かぁ。なんか面白そうだね」
「だな。あんたが男なら……」
「何言ってんだよ! ダメに決まってんだろ、そんなの!」
本多と七ツ森も面白がってあいつの話に乗るが、あいつが男なんて俺は絶対に嫌だ。二人とは対照的な俺の剣幕にあいつは戸惑うような表情を見せる。
「もう、玲太くんったら、例えばの話だよ」
「例えばでも嫌なんだ。俺はそのままのおまえが――」
好きなんだ、と言いかけて、ハッとして口をつぐむ。こんなところで何を言おうとしているんだ、俺は……。
「カザマ必死過ぎ。ま、それだけ彼女を……ってことなんだろうけど」
「そうそう。そのままの彼女がいいんだよね? リョウくんは」
本多と七ツ森には俺の言おうとしていたことは気づかれてしまった。
「……その通りだよ。なんか悪いか」
二人にからかわれるのは癪だが、あいつへの気持ちに嘘はつけなかった。初めて見た日から、高校で再会した今も変わらずにずっとそのままのあいつを大好きでいる。
「あ、リョウくん開き直った!」
「ああ。この潔さはマネできないわ」
ここまで言っても鈍いあいつのことだから、どうせまた「え?」とかぼんやりしているのだろうと思い開き直ったら、
「…………っ」
あいつは顔を真っ赤にしていた。俺のことでこんなに顔を赤くしているあいつは初めて見る。もしかして、あいつも俺を……?
「あれ? 君も顔が真っ赤だね?」
「あらら、テレてますね。あんたも案外カザマのこと……」
「えっ、えっと……」
本多と七ツ森に顔が赤いことを指摘されてあいつはますます顔を真っ赤にして困惑する。こんな時、俺もあいつにどうしてやるのがいいか分からず、あいつと二人して顔を真っ赤にして互いに見つめ合っていると「ラブラブ」と本多の声が聞こえてきた。
「はあ?」
「聞こえなかった? ラブラブ」
「アツアツ!」
本多と七ツ森は俺たち二人をからかってきた。
「うるさい、さっさと食べろよ」
「うん、大人しく観察してます」
「じゃ、そうしましょ」
俺が注意しても、本多と七ツ森は全く動じることなく俺とあいつを見てニヤニヤ笑ってくる。
「見るな。たく……おまえは気にすんなよ?」
「ええと……う、うん」
あいつは小さく頷いた。まだ顔を真っ赤にしていて、あいつにまで恥ずかしい思いをさせてしまったかと反省したが、
「あっ、玲太くん、これ美味しいよ!」
「……出たな、食いしん坊」
学食を食べ始めると、あいつはすぐにいつもの様子に戻った。あのまま気まずくなるよりかはいいのだが、ほんの少し抱いていた期待があっけなく消え去る。これにはさすがに本多と七ツ森も失笑し、俺に同情の目を向ける。
「これは苦労しそうだな、カザマ」
「そだね。でも、彼女に一生懸命なリョウくん、カワイイ」
「ほっとけ。カワイイとか言うな」
上げたり落としたり、俺を振り回してくる幼馴染のあいつと、俺をからかっているんだか何だか分からない友人二人。今日一番盛大な溜息をつくと、あいつは先程美味しいと言っていた学食のおかずを俺の皿に乗せた。
「はい、玲太くんにも」
「ああ、ありがとうな」
あいつにお礼を言うと、あいつは俺の大好きな笑顔でにっこりと笑った。すると、本多と七ツ森も俺に笑ってくるが、「良かったね」と言っているようなどこか温かい笑みも見えて、四人でいるのも案外悪くないかもしれないと思えた二年生春のことだった。