休日秋の空が徐々に明るくなり始めた日曜日の早朝、佐伯清剛は静かに目を覚ました。窓から差し込む柔らかな光が、部屋全体を優しく包み込んでいる。隣で眠る渡海征司郎の寝顔を見つめながら、佐伯は微笑んだ。昨夜、二人で愛し合った後の余韻が漂い、渡海の細い腕や、シーツの下から覗く華奢な肩骨が、佐伯の胸に暖かさと同時に心配の念を呼び起こした。
「また痩せたな...」
佐伯は小さくつぶやいた。思わず手を伸ばし、渡海の頬に触れる。するとくすぐったそうに、渡海が小さく身体を動かした。しかし、目を覚ます様子はない。よほど疲れているのだろう。
慎重にベッドから抜け出し、佐伯はキッチンへと向かった。今日は久しぶりの二人揃っての休日。この機会を逃すまいと、佐伯は昨夜からメニューを考えていたのだ。
冷蔵庫から新鮮な野菜や魚を取り出し、まずは朝食の準備に取り掛かる。味噌汁には、柔らかな絹ごし豆腐、歯ごたえのあるわかめ、香り高い青ネギを。焼き魚は脂ののった秋鮭を選び、塩を振って焼き色をつける。卵焼きには濃い緑のほうれん草を細かく刻んで混ぜ込み、栄養価を上げる。小鉢には、秋の味覚である栗と里芋の煮物を用意した。
佐伯が黙々と料理を作る間、微かな物音が聞こえてきた。気になって様子を見に行くと、寝室から移動してきた渡海がリビングのソファで再び眠りについている姿が目に入った。
そこには丸くなって眠る渡海の姿があった。長い睫毛、高い鼻梁、薄い唇。シャープな輪郭が、朝の柔らかな光に照らされて一層際立っている。しかし、佐伯の目には、その華奢な体つきが気がかりでならない。
「おい、渡海。起きろ」
佐伯は優しく、しかし少し強引に渡海の肩を揺すった。渡海は不満そうな顔で目を開けた。
「...教授、今日は休みですよ」
渡海の声は眠たげで、少し掠れていた。その姿は、まるで甘えた猫のようだ。
「わかっている。だからこそ、ちゃんとした朝食を食べろ」
佐伯は諭すように言った。渡海は渋々起き上がり、髪を掻き上げながらダイニングテーブルに向かった。
テーブルの上には、佐伯が丹精込めて作った朝食が並んでいた。
「教授...こんなに作る必要ないですよ」
渡海の声には驚きと、少しばかりの困惑が混ざっていた。
「お前が栄養不足になったら困るんだ。さあ、食べろ」
佐伯は厳しい口調で言ったが、その目は優しさに満ちていた。渡海は観念したように箸を取り、ゆっくりと食べ始めた。
佐伯は渡海の食べる様子を見守りながら、自分の朝食に手をつけた。渡海の箸の動きは遅く、少量ずつしか口に運ばない。佐伯は時折、「もう少し食べろ」「魚も食べなさい」と促した。
「教授、もう十分です...」
半分ほど食べたところで、渡海は箸を置こうとした。
「だめだ。もう少し食べろ」
佐伯は譲らなかった。渡海は観念したように、さらに数口を口に運んだ。
食事を終えると、二人はソファでくつろいだ。テレビをつけ、朝のニュース番組を眺めながら、静かな時間を過ごす。渡海は佐伯の肩に寄り添うように座り、時折あくびをする。
佐伯は渡海の細い指を自分の大きな手で包み込みながら、ふと思い立って渡海の唇に優しくキスをした。それは長く、深いキスだった。渡海の細い体が佐伯の腕の中で震えるのを感じる。
「教授...」
渡海は息を整えながら呟いた。
「もっと肉をつけなきゃな。抱き心地が悪いぞ」
佐伯が冗談めかして言うと、渡海は顔をしかめた。
「俺の体型が気に入らないなら、他をあたってください」
渡海のむっとした表情に、佐伯は思わず笑みがこぼれた。
「いや、お前以外に相手はいないさ」
佐伯は優しく渡海を抱き寄せながら言った。
渡海は小さく頷き、佐伯の胸に顔を埋めた。二人は言葉なく、秋の朝の静けさの中で互いの温もりを感じていた。心臓の音が安心する。窓の外では、紅葉し始めた木々が優しい風に揺れ、新しい季節の訪れを告げている。
佐伯の温もり、規則正しい心音、そして二人を包み込む静寂。全てが心地よく、渡海の意識は再び眠りの縁へと誘われていった。