無知と独占欲「遅くない?」
リビングのソファから雪彦の声が響く。深夜0時を回ろうとする時計の下、征司郎が玄関に入るなり、怒りを帯びた声が耳に届いた。
立ち上がった雪彦の姿は、征司郎と寸分違わぬ均整の取れた容姿。同じDNAを持つ双子は、互いに整った顔立ちを持つ。
ただ、その表情は正反対だった。疲労の滲む征司郎と、艶めかしい笑みを浮かべる雪彦。
「...緊急の手術だった」
"オペ室の悪魔"と呼ばれる男の、この日の手術も完璧だった。だが、その代償に征司郎の声には疲労が滲む。細い指が微かに震えているのを、雪彦は見逃さない。
「ふーん...この前も遅かったよね」
征司郎をソファへと導き、隣に座る。雪彦は、着慣れた黒のロンティーの襟元に手を伸ばし、昨夜残した首筋の痕を確認していく。指先が触れる度に、征司郎の体が僅かに反応するのが分かる。
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