赤のレース ジャミルの褐色肌の手指によってワイシャツのボタンが外されていく。ユウは彼の顔を直視できない。じんわりと熱くなった頬のまま、目線を下げる。その理由は今日の下着にある。初めて買った柘榴色のレース。ワイヤーはしっかり入っているが胸全体はレースが透けているせいでいつもよりだいぶ肌の露出が多い。スラックスも脱がされると、サイドが編み上げになっていて肌の透けた同じ色のショーツが露わになる。ちゃんと身につけているのに肌があまり大事なところがいまひとつ隠れておらず恥ずかしい。写真で見たのとなんだか違う。
それでも年上の彼にすこしでも色っぽくみられたいと思って買った下着。つけてみると思いのほか羞恥に駆られる。彼は気にいるだろうか。それともこういう下着は好きではないだろうか。本人に聞くことなんてできないので、彼の表情をうかがうしかない。一瞬だけ目線を戻す。
「…………」
いつもと変わらない冷静な顔。彼はなんでもないような顔で背中に手を回しホックを外す。あっという間に剥ぎ取られる下着。ユウの努力と勇気はあっという間にベッドの隅に畳まれた。
ユウはあの日以来赤いレースの下着を封印した。自分だけが張り切っていたのがあまりにも情けなく、情事が終わった後いそいそと下着をつけ直すのも恥ずかしかったくらいだ。
今日もふたりで過ごしているとそれとなくいい雰囲気になって、ジャミルのベッドに押し倒される。今日はこれまで通りの背伸びしていない年相応のなんでもない下着。すこし子どもっぽいかと思っていたが、どちらにせよ彼には関係ないのだろう。すこしいじけた気持ちのまま、彼がワイシャツのボタンを外すのを待つ。
「今日はいつもの下着なのか」
「へっ」
感情の読めない言葉に思わず驚いて目を合わせてしまう。彼のにやりと意地悪く笑った顔。どうやらあの日の赤色がいつもとは違うと気づいていたらしい。
「……気づいてたんですか」
「そりゃ気づくさ。あんな情熱的な下着」
「でも、なにも言ってくれなかったじゃないですか」
はだけたワイシャツのままユウはむすっとふてくされた。いじけた顔をして目を逸らすと、顔に陰が落ちる。ジャミルの長い前髪が顔にかかって、蛇のようにするどい視線がユウの逃げた視線を捉えた。
褐色の肌で分かりづらいが、彼の頬はうっすらと紅潮していて、それをごまかすようにユウの腹部の肌に爪が立てられる。
「……悪かったな、興奮して言葉が出なかったんだよ」