サテンのパープル ユウは下着姿のままベッドの上で正座させられていた。眼の前には恋人のスーパーモデルが衣類をきちんと着たままご立腹。どうしてこうなってしまったのか。話は十分前に遡るーー。
恋人が今日は泊まっていくと言ったから、ユウは前にこっそり買った下着を身に着けた。なぜこっそり買ったのかといえば、下着も服のブランドも彼がよいと言ったものばかりを買ってきたからである。べつに強制されているわけではないが、超がつくファッションモデルの彼が言うなら間違いないだろうとあまり深く考えたことはなかった。
しかし彼がよしとしたものばかりだと、なんだかサプライズ感がないのではないか。そう思い、スマートフォンでいろんな通販サイトを見て回って、どんなものなら彼が喜ぶかとしばらく考えて考えて買った一着。ユウ個人的にもとても気に入っている。すこしセクシーだがエレガントを忘れずに。金額的にもそれなりのものだ。
彼も喜んでくれるだろうと安易に考えていた。しかしその考えは非常に甘かった。シャワーを浴びた後のベッド。ワンピースタイプのパジャマを脱がしてくれた彼が視線を落とし、一気に眉を吊り上げた。寝室に漂っていた甘美な雰囲気は消し飛び、ユウは「そこになおりなさい」とぴしゃり言いつけられ、今に至る。
「そもそもの形がアンタのバストと全然合ってないし、ノンワイヤーなんて言語道断。もしかして通販で買ったの? ブランドによって微妙に作りが違うからこのカップサイズじゃ肉がはみ出てる。しかもこのラベンダーは肌と合わない。サテン生地じゃなくて、もっと淡い色で繊細な刺繍やレースのほうが似合うわ。ショーツもティーバックなのはいいけれど、ぱっと見でも分かるくらいサイズが大きいし……なんでこんな下着買ったのよ」
次々と並び立てられる駄目出しの言葉。悩んで買った苦労が水の泡だ。なぜこんな下着を買ったと言われ、正直に答えるしかない。ユウは体を縮こませて、小さな声で言う。
「ヴィルさんに……喜んでもらいたくて……」
「は?」
「たまには見たことない下着のほうが、嬉しいかなぁって」
怒号が飛んでくるのを承知で顔を下げたまま目をぎゅっと瞑る。……しかししばらく待ってもがつんと頭に響く声は降ってこない。その代わりにがしっと力強く両肩を掴まれ、ユウは驚いて目を開けた。彼を見ると、きれいな金髪がうなだれている。
「ヴィルさん……?」
「もう……バカ……」
「え、ごめんなさい」
突然罵られ、下着のことを続けて怒られているのだと思いユウは反射的に謝る。
「アンタじゃない、アタシがバカってことよ!」
「んん……?」
ユウはよく分からず首をひねる。すっかり色っぽいムードが吹き飛んでしまった夜。とりあえず彼にファッションのことでサプライズ感を出すのはやめようと、ユウは心に固く誓った。