可哀想な司の話 4大きなトランクをガラガラと引き摺りながら、類は空港の中を歩いていた。仕事で何度か来たことがあるとはいえ、やはりその広さに圧倒される。ふわりと大きな欠伸を一つして、類はあらかじめ呼んでおいたタクシーに乗るために、空港の出口へ向かった。
司の命が懸かっていると言ったら大袈裟かもしれないが、現に彰人から自殺未遂の報告があったので、用心するに越したことはない。少しでも早く帰宅するために、多少お金は掛かるが空港発のバスよりもタクシーを選んだ。司が無事でいてくれればいい。生きていてくれればいい。その一心で歩を進める。既に到着していたタクシーに乗り込み住所を告げて、目的地である自宅へ向かってもらう。普段タクシーを使う時は、仕事の関係上住所がバレるのが嫌なので自宅近くのコンビニや適当なスーパーマーケットなどで降ろしてもらっているが、今回ばかりはそうもいかない。高速道路も必要なら使ってくださいと伝えて、窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺めていた。
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