ちねけん 同棲ネタ「剣太郎。俺と同棲する気ーねーん?」
知念の大学合格が決まり、お祝いの手紙を送るとそう返事が返ってきた。沖縄から来ることを考えれば、こちらで部屋を借りて暮らす事になるのだろう。同棲すれば負担は減るし、それに――恋人とずっと一緒にいられる。
幸せな事ばかりではないかもしれない。一緒にいる事で衝突だってあるだろう。けれどそんな時間すら愛しく感じる程に、知念と剣太郎の距離は遠い。
両親に相談すれば、先輩たちに甘やかされてきた分、少しぐらい外に出た方がいいだろうと言われ高校二年生の身でありながら家から出ることを許可された。失礼な物言いだが、反対されるよりは遥かに良い。
許可が出たとなると、引越しより前に知念は葵家へ挨拶にやってきた。両親も兄弟も知念を気に入り、どこで出会ったのと質問責めにあった。そんなこんなで、知念と剣太郎は同棲を開始したのである。
知念の貯金を頼りきる事はしたくないので、剣太郎も早々にバイトを始める事にした。この近辺は幼い頃から剣太郎を知っている人ばかりなので、親から聞いたのかバイトを探している事、雇ってあげるよ等と近所のおじいさんおばあさんから声を掛けられる。だが、剣太郎が選んだのは、ある程度厳しくしてくれそうな樹の食堂であった。
「比嘉の知念と同棲? それ、サエには言わない方がいいのね……」
そう忠告しつつも、彼は快く剣太郎と共に食堂の手伝いに励んだ。
剣太郎が食堂でのバイトを選んだのは、もう一つ理由がある。料理のスキルを上げるためだ。知念がこちらにやってくる二ヶ月後には彼の誕生日が待ち構えている。それまでにご馳走を作れるようになりたかった。その事情を聞いた樹はバイトの後に時間を作って料理を教えてくれた。故に、バイトから帰る時間が遅くなっていたのだが……。
「剣太郎。ちょっと話があるさぁ」
玄関先に知念が待ち構えていた。何やら怒っている様子である。どうしたんだろうと靴を脱いで家に上がると、知念は剣太郎の背中をギュッと抱き締めた。
「最近、帰りが遅いんじゃないか?」
そう言って、剣太郎の頬をぷにぷにと指で触る。
「高校の三年間でバイト代貯めてあるやっし、剣太郎がこんな遅くまでちばらなくてもいいさぁ。それより……せっかく近くにいるのに、会える時間が減る方が俺は寂しい」
もしかして、寂しがっているのだろうか。あの知念さんが? 照れくさくなって、笑ってはいけないと思うのに唇がムズムズする。
「えー、剣太郎……」
「ごめんなさい。実は、居残りしてたんです。……知念さんにご馳走を作りたくって」
知念の腕の中で、剣太郎はそう白状した。知念はキョトンとした後、室内のカレンダーに目をやる。剣太郎がペンで色とりどりに塗った知念の誕生日だ。
「……剣太郎〜!」
「わっ! ちょっと、くすぐったいですよ〜!」
ギュッと抱き締められ、剣太郎はクスクスと笑う。でも、彼が寂しがるなら遅くまで練習するのはやめよう。一緒にいられる時間を大切にしたいから。
坊主頭にキスの雨を降らせてくる知念を制止して、振り返る。剣太郎は明日からは早く帰ると自分の考えを伝えると、背伸びをして知念の唇にキスをした。