「三日月藻」
「みかづきも?」
刑部が口にした単語を、そのまま復唱する。三日月藻。確かアレだ、昔理科の授業で習った。あと古い映画で観た気がする。カタツムリのなんちゃらで人を操るホラー映画。
「パラサイド・イブだな。あとそれに出てくるのはミトコンドリアだ」
そう、それ。それを見てから暫くは、カタツムリを捕食する鳥を見て背筋が凍えた。
「で、その三日月藻がどうしたんだよ」
今、この時にする話だろうか。小休止となったが自分たちは今まさに裸で抱き合い、いざ挿入となっていたはずだ。それが寸止めされて荒かった息も整ってきた。訝しんで見上げると、刑部の視線は桐ケ谷の股間を向いている。釣られて見ると、自分の猛りたったものが緑色に発光している。前に貰った、蓄光ゴムだ。使用期限が近いので最近はよく使っている。
ここ最近は天気も悪くシーツを洗濯に出すのも面倒だからと桐ケ谷もつけたが、それがなんだと声に出す前に頭の中で繋がった。
「――誰が微生物だっ!」
暗にアレか、小さいと嘲っているのか。刑部よりはコンパクトに見えるが、太さは負けてないはずだ。腰に回していた足の踵で、げしげしと刑部を蹴る。
「んだてめぇ喧嘩なら買うぞ」
「待て落ち着け。三日月藻は単細胞生物の中でも比較的大型だ」
「問題はそこじゃねぇんだよ!」
つーか誰が単細胞生物だ。
「緑色で弓形に沿っているから、つい口に出たんだ。そう怒るな」
あやすように桐ケ谷の頭を撫でてくるが、流されてたまるものか。半眼になって睨みつける。
「お前だっておんなじのつけてるじゃねぇか」
「俺はほら、挿れてしまえば、ね」
「あ、ん――っ、てめ、挿れる前に言えよ」
クソと悪態を吐くが、それも腰を揺らされる度に甘い呻きへと変わっていく。
終わったら覚えてやがれと背中に力いっぱい爪を立てるが、残念ながらそれが叶うことはなかった。