シルバーアッシュとプラマニクス/アークナイツ 階下から音が聞こえ、編み目を数えていたエンヤは手を止めた。編み棒を傍のテーブルに置き、部屋を出る。階段を降りながら玄関を見れば、兄が雪のついたコートを従者に渡すところだった。
「お帰りなさい、お兄様」
「エンヤ」
兄は出迎えた妹の名を呼んだ。彼が笑うことは少ないが、口元がわずかに緩んだのがわかる。
「まだ起きていたのか」
「ええ、お兄様が帰ってくる日ですから」
「エンシアは」
「まだ戻っていません。今度の山は張り切っていましたから——あまりヤーカおじさまに迷惑をかけていなければいいのですけど」
お転婆な妹のことを考えて苦笑しつつ、さあ、とエンヤは兄の袖を引いた。
「冷えたでしょう。お茶を淹れますね」
昔に比べれば、使用人の数は随分と減ってしまった。けれどもエンヤは、密かに自ら身の回りのことをすることが好きだった。誰かに傅かれるより、大事な家族のために何かをしてあげたいと思う。兄の土産である紅茶の葉にお湯を注ぎ、その香りを胸いっぱいに吸い込む瞬間が幸せだと思う。
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