花札の向こう 煉獄は職員室で、机の上にある花札を眺めた。
一枚足りない。予備の白札を見てため息をつく。
心当たりはある。昨日のあの時だろう。
残業後の帰り道、花札を道にばら撒いてしまった。
探しに行くべきか胸の前で指を組む。
そうしたらまた会えるかもしれない、とぼんやりと思った。男は絵の具の匂いがした。
結局一度あそこへ行って見たがその花札が見つかることはなく、男に会うこともなく、半年が過ぎた。
放課後、美術部の作品の運び出しを手伝っていると、その絵の具の匂いにあの長身の男を思い出した。煉獄が散らかした花札を拾ってくれた、整った顔の「天元さん」。花札って何?としゃがんで聞かれたときは、気合を入れて説明してしまった。
運び終えて軍手を外しながら、そんなことを考えているとイーゼルに足を取られ転ぶ。
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