「やはりイイな、レイヴン」
第4隊長のラスティが持ち帰った映像を見ながら、フロイトは言った。映像の中の白亜のACは、スティールヘイズと共に舞うように敵を殲滅していく。
レイヴンは彼の僚機として作戦に参加していた。鳥のように速く飛び回り、翻弄してきたかと思えば、犬の様に何処までもしつこく狙った相手を追い詰める。まさにハンドラーウォルターの猟犬であり、レイヴンというコールサインに相応しいACパイロットだ。スネイルは、レイヴンを駄犬駄犬と罵ってきたが、あの独立傭兵はこちらの様々なミッションをいくつもこなしていることからも、その実力を認めざるを得なかった。
「こいつのデータ、俺の端末に回してくれ。いつでも見れるようにしたい」
相変わらずフロイトはACにしか興味がない。
スネイルは二つ返事で奴の端末にレイヴンの映像データを送った。しかし、わざわざ端末に寄越せというのは中々ない事だ。あの忌々しい駄犬の戦いは余程この男の琴線に触れたようだった。
「ないとは思いますが、外部には持ち出さないように」
「ああ、大事なオカズだしな。そんなことはしない。部屋でゆっくり楽しむよ」
「……は??」
「お前だって何本かあるだろ?」
フロイトはそう言って軽く握った手を上下させ、最悪のジェスチャーを見せる。いや、待て。この映像のどこにそんな要素がある??ただの記録映像だぞ??ACしか興味ない男だとわかっていたがそこまでとは思っていない。スネイルは訝しんだ。
「あのABからの旋回、そこからのブレードの斬り込み。あれは最高だった。興奮しないほうがどうかしてる」
「そういう事を聞きたいんじゃない」
「なんだ人の性癖にケチつけるのか?お前はそんなに狭量な奴だったか?スネイル」
「よりにもよって駄犬のものを!」
「ああ…しかもあの脚で蹴り込んでくるのも悪くない。実に煽情的だ…。何だよその顔。いや、別にパイロットで抜かないぞ?そこはちゃんと切り分けてる」
「そういう問題じゃ」
「はは、お前もしかしてアイツ自身で抜いたことある…」
フロイトが言い終わる前にスネイルの拳が彼の顔面のすぐ横に叩きつけられた。壁が轟音とともにひしゃげる。
「こんなくだらないことで首席隊長の席を開けさせないでもらいたい」
「…ああ、悪かった」
フロイトが落とした端末を拾い上げ、操作するスネイル。一通り操作し終わると彼に投げ返す。
「あ!お前、消したな!」
「当然です。くだらないことを言っていないで持ち場に戻りなさい」
スネイルは不機嫌を最大限にしながらその場を後にした。
…アイツは今日はずいぶん虫の居所が悪いようだ。図星だったかな。などと考えながらフロイトはひしゃげた壁を見ていた。
「3番ならデータの復元してくれるかな…」