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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    昨日の続き。カミューさんとお話しするビクトールさん。自分はカミューとフリックが仲良しなのが好きなんですよね。なので二人は仲良しです。

    2025-06-13


     今日の仕事を片づけて商店街をぶらぶらと歩いていたカミューは店先に知人の姿を認めて立ち止まった。様々な種類のダンプリングを売る店で、グラスランド風の味付けも扱っていてカミューも時折利用する店だ。
     店主と慣れた様子で談笑する男に近づき、カミューは笑みを浮かべて声をかける。
    「こんばんは、ビクトールさん」
     振り返ったビクトールは人懐っこい笑みを浮かべている。
    「おう。お前も仕事終わりか」
    「ええ。ビクトールさんもですか?」
    「いらっしゃい。あんたもどうだい」
     カミューにも愛想よく声をかけながら、店主が手際よくビクトールの注文をさばいていく。差し出した金物の器にこの店名物の肉餡が入ったダンプリングを四つほど入れて、大鍋から金色のスープを注ぎ入れる。かと思えば、油からスープに入っているよりも少しだけ小ぶりな団子を取り出して、油紙に包んでいく。手際がよく、まるで踊りのようにも見える店主の動きを見るのがカミューは好きだった。
     幸い並んでいる人もなく、カミューは言われるがままにいくつか注文をする。明るい声が通りに響いた。
     ビクトールの注文は少しだけ量が多く、もう少しかかりそうだ。注文口から二人して外れて、声がかかるの待つことにする。
     夕闇が忍び寄る時間帯だ。商店街の店先には明かりがともり、人々の顔を照らしている。戦争中だというのに人々の顔に悲壮感は薄く、それがカミューにはとてもありがたく思える。ロックアックスとは違う。あそこは風のどん詰まりだ。
     隣のビクトールを見れば、黙って何かを考えているようだった。常に笑みを浮かべ、様々なことに目を配る男がこうして押し黙るのは珍しい気がする。
     何を考えているのやら。今日の予定など、これから友人と晩御飯ぐらいしかないだろうに。
    「フリックは軍師の所に行っていますから」
     名前を出せば、視線がこちらへ向く。
    「少し遅くなるかもしれませんね」
     軍議の後ほかならぬビクトールから持ち出された案件についてシュウに確認したいことがある。騎馬隊の編成案の報告ついでに軍師の部屋へ向かったフリックを見送ったのはつい先ほどの事だ。
     騎馬隊とは別にシュウのこまごまとした用事をしょっちゅう片付ける羽目になっているフリックの事だ。何かあれば、そのまま仕事、となるのかもしれない。そうなったら、ビクトールのお願いはどうなるのやら。
     完全に野次馬の気分でカミューはにっこりと笑って見せた。自分の笑みが、人にどんな感情をもたらすかなど、全部知っている。
    「……失敗したな」
     明らかに面白がっている顔のカミューから目を背け、ビクトールの方は面白くもなさそうに唇を尖らせる。
    「大したことねえ話なんだから明日にしときゃ良かった」
    「真面目なんですよ。知っているでしょう」
     含みを持たせて言えば、ビクトールはわずかに眇めた目でこちらを垣間見る。それに目線を合わせることなく、カミューは言葉を紡いだ。
    「大事な話の前に、気になることは片づけておきたいんですよ。かわいいじゃないですか」
    「おい」
     低い声は、生半可な人間ならそれだけで震え上がってしまいそうな程だ。カミューは笑みを深くして、足をゆっくりと組み替える。
    「様子がおかしいから聞き出したんですよ」
     怒らないであげてくださいね。
     様子がおかしいといったって、八割は単なる好奇心だった。仕事がもう少し忙しければ多分流していただろう。まあ運が悪かったと思ってほしい。
     人々が家路を急ぐ声がする。店主が忙しく働いている。その中で、ふたりだけぽっかりと穴の中に落ちたみたいに静かだ。
    「どこまで聞いたんだよ」
    「あなたが全部フリックに訊くこと、ですかね」
     だって訊くから。軍に見立てた駒を指先でいじりながら、フリックは困惑と諦めと、五分の怒りをこめてビクトールの名前を幾度か呼んだ。
     やりたいことがあって、それには自分が必要で、嫌ならやめるがお前はどうしたいと訊かれてしまっては答えざるを得ないだろう。少なくとも自分はそう思う。ビクトールが責任を取らせようとしているのは分かる。でも。
     感情は入り乱れているが、心底困っているのは本当なんだろう。
    「それでお前は何か言いたいのか」
     いい大人の関係だ。フリックとの付き合いだって、つい先日深め始めたばっかり。何を言えるわけもないが、ただ色恋を重ねたという自負はある。
    「健全ではないのでは?」
     色恋に健全もなにもあったものではないとしたって、ビクトールの行いはどこか不自然だ。嫌がることはしたくない、という綺麗ごとを盾にとって、フリックに責任を負わせている。
     逃げないという選択肢を取ったのはお前のほうだろう。だからお前は俺を見るべきなのだ。それがお前の選択だ。
    「まるで目隠しでもしているようだ」
     ビクトールは大きく息を吐き出すように笑った。カミューではなく、虚空を見る目はなんの光もなく黒い。
    「目隠ししてるんだよ」
     声ばかりはまるで冗談を言っているように軽い。踏み込みすぎたな。今更、薄い後悔を抱えたカミューに気づいていながら、ビクトールは言葉を止めない。
    「俺が次に何を言うか、訊き終わるまであいつは他を見ないだろう」
     ビクトールからの感情をフリックは全部受け取っていない。少なくとも、かれ自身はそう考えている。全部受け止めて、自分にひきつけて可否を判断し、それから次へ行こうとする。少なくともその間、フリックの中に入り込めるのはビクトールだけだ。
    「……不健全では」
    「健全な恋なんてねえもの」
     それはそう、と言いかけたところで、屋台の店主から声がかかった。袋と器で渡されたダンプリングはやっぱり数が多い。
    「ぜんぶ食べるんですか?」
    「全部は無理かな。一個やる」
     油紙で包まれたダンプリングを一つカミューに押し付ける。ビクトールの顔はいつも通りで、カミューにはそれが少しだけ恐ろしい。
    「まあ、」
     自嘲気味に、ビクトールは肩をすくめた。
    「忠告程度に聞いとくわ」
     嫌がることはしないが、嫌がったら本当にやめるのだろうか。フリックが他の人を好きな可能性だってあるのではないか。
     脳裏に浮かんだ疑問をカミューはぐっと飲みこんだ。
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