ピアスの話②インターハイ後、体育館で赤木から次期主将の指名があった。
前に立った宮城がいつもの不敵な顔で挨拶を始める。
こういう時は隣にいることがほとんどだったせいか、新鮮に感じる。
「ゴリからのリョーちん、高低差がすげーな」
「おま・・・宮城に聞かれたらぶっ殺されるぞ」
「花道!あとで体育館裏こいよ」
流川がやれやれといった顔で溜息をつく。
こうして見ると身長はともかく、貫禄は赤木にも負けていない。
自分が後輩ならこれほど頼もしい先輩はいないだろうと思う。
普段なら嫌味の1つでも言ってやるところだが、ここは先輩として素直に応援してやろう。
挨拶を終えた宮城がメンバーを見渡す。
遠征の時にうなされていた宮城の顔がふと頭をよぎった。
◇
「よう、主将」
「ぜってー言うと思った」
三井サンがよっこいせと言わんばかりに俺の隣へ座る。
「主将になった気分はどうだ」
「正直、ダンナみたいにできるか不安スね。自分よりでけえヤツばっかだし。三井サンが来年もいればなぁー」
「可愛いこと言うじゃねえか。・・・っておい。俺もお前よりでけえだろうが」
「ちっちゃいよ。器とか」
わなわな、とはこういう姿を言うんだろう。
右腕で握り拳が瞬時に作られ、思わず防御の体制を取る。
拳はこちらに飛んでくることなくゆっくり降ろされた。
「ま、俺が何言おうとお前はムカつく顔で平然としてんだろーけどよ」
「え?」
予想外の言葉が耳に入り、思わず三井サンの顔を見た。
三井サンはまたあの時の顔で俺を見る。
「せっかくだし言っとくわ。お前は」
ダン!!
コートからこちらに飛んできたボールが体育館の壁に当たる。
「おっ。さっそくの出番みてーだな、主将」
「・・・あーーーーーー」
あの二人を黙らせたら続き聞かせてくださいよ。
そう伝える隙も無く、見送るように手を振る三井サンを後にする。
我ながらいつもの2倍はデカい声が出た気がする。
縮こまる二人の後ろでダンナが笑って頷いているのが見えた。
その後は主将の引き継ぎで部活が終わり、結局続きを聞くことはできなかった。
◇
あの続きはなんだったんだろうか。
話し相手のいない部室で着替えながらずるずると考えてしまう。
単なる雑談だっただろうに、必死な自分が嫌になる。
忘れよう。
断ち切るように勢いよくロッカーを絞め、荷物を持って部室のドアを開ける。
さっさと帰って、うまい飯を食って風呂に入って、それから・・・
「ぶえっ!!」
「おめー、俺にぶつかるの何度目だよ」
ついさっき断ち切ったのに。
「んなとこ立ってっからでしょ・・・帰ったんじゃなかったの」
「提出物を出しに行ってた。んで、宮城がまだいるかと思って」
チッ。
「あんときのお前、名残惜しそーな顔してたからよ。来てやったぜ」
◇
「それで、なんスか」
「むぉ」
「最初の目的を忘れないでくださいよ」
「わりーわりー」
コンビニで買った肉まんを頬張る三井サンに、すっかり忘れているであろう話を切り出す。
この野郎、忘れてんじゃねーぞ。ここまで来たら聞くまで意地でも帰らねえ。
「ん、先輩として言っとくべきかなっつう・・・なんか照れんなぁ」
夕日のせいか、肉まんを食ったせいか、三井サンの顔は赤く見える。
妙に緊張して唾を飲み込んだ。
「わざわざ言い直すほどのことでもねーんだけどな」
耳が痛い。
「お前は絶対いい主将になる。俺が保証する」
「・・・なんスかそれ。一番信用ならねえよ」
あの時の自動販売機の音がした。
◇
まずい。ノリで先輩ぶってしまった。
宮城はこれから主将という重い役割を背負うというのに俺としたことが。
大げさにそんなことを思うほど宮城の反応は薄かった。
「お、おい宮城。別に褒める以外の他意はなくてだな」
「あんたがそー言うならそーなんだろうな」
「は?」
身長差もあって、宮城の顔はよく見えない。
「俺はいい主将になる。ウン、そんな気がしてきた」
「もしもーし、宮城さーん」
宮城は腕を組んでウンウンと頷き、考え込む。
頼むから俺を置いていかないでくれ。
「あの~・・・」
「ちょっとしゃがんでもらえます?」
制服の裾を引っ張られ、そのまま屈む。
俺の頬に宮城の顔が近づいて離れる。
・・・あ?
「ありがとうございます、三井サン。俺がんばるね」
いつものように不敵な顔で宮城が笑う。
「あれ、もしかして口が良かった?なんちゃって」
ああ、湘北は安泰だ。
足元に散らばるカバンの中身を無視して、呆然とそんなことを思った。