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    2021年12月発行 月鯉・現パロ・R18 『金曜まで待って/待てない』限定公開
    社会人で同棲してる二人。出張で暫く家を空ける鯉を待てない堪え情の無い月の話。
    当該作品の再販予定なし

    #やぶこい3
    #月鯉
    Tsukishima/Koito
    #月鯉Webオンリー

    金曜まで待って/待てない堪え情が無い。のではなくて、愛情が深い。のだと思って欲しい。

    我儘かも知れないが。






     「お帰りなさい。」
     「った、だいま…?」
     そろそろだろう、と、玄関で待ち構えていたら、ドアを開けた鯉登さんは予想より遥かに驚いた顔をして『ただいま』のその一言を詰まらせた。
    「そんなに驚くことないでしょう?」
     心底驚いた様子に苦笑してそう零すと、鯉登さんは靴を脱ぎながら「まだ帰ってないと思とった」と少しばかり拗ねたような言い方をした。どうせ照れ隠しだとは解っているが。
     「今日、早かったのか?」
     「えぇ。だから、偶には俺が晩飯くらい用意しようと思って。」
     「まこち!?」
     さっきから驚いてばかりの鯉登さんは眼をまん丸にして声を上げた。素直な反応は可愛らしいが、そんなに驚かれるほど俺は普段何もしていないという事かと苦笑いするしかない。
     
     この家で、鯉登さんと暮らし始めてもう直ぐ一年になる。
     出逢いは偶然だった。
     三年前の雨の日だ。朝からの雨予報だったにも関わらず傘を忘れて来た俺は駅のコンビニで傘を買った。同じような奴が多いのか、仕入れの管理が出来ていないだけなのか、其れが最後の一本だった。
     無事傘を手に入れて安アパートへ戻ろうとしたところへ、傘を求めてコンビニに飛び込んで来たのが鯉登さんだった。
     既に幾らか髪を濡らしていた鯉登さんは、一目で人を惹き付けた。店員は勿論、店内に居た客の大半がちらちらと鯉登さんを眼で追っていたのを覚えている。斯くいう俺も、そうだったからだ。
     その体格で男だとは直ぐに解ったが、こんなにキレイな男がいるものかと妙に感心していた。
     我が身を振り返ればその体躯の差に呪いたくもなるところだろうが、あまりに美しいモノを前に唯々俺は感じ入っていた。そうしてその美しい人が、傘を買いそびれたという。加えて俺の手には、買ったばかりの傘があった。
     「どうぞ。」と傘を差し出すことに躊躇いは無かった。自分でも驚くほどに。
     鯉登さんは、初対面の、強面のおっさんにいきなり傘を突き出されて当然に驚いていたが、俺は気にせず傘を鯉登さんに押し付けた。
     雨の中、この美しい人を濡れて帰らせるのは忍びない。俺程度であれば、幾ら濡れたところで問題ない。幸い身体も丈夫に出来ている。少々濡れたところで風邪をひくようなことも無い。
     そう割り切って傘を押し付け、雨の中を走った。
     美しい人を雨にあたらせずに済んだ。その時の俺は、それだけで満足だった。
     けれども話はそれで終わらなかった。
     翌日、同じ駅の改札で、美しいその人が俺を待っていたのだ。
     驚くべきことに、ほんの一言、言葉を交わし、安傘を押し付けた俺を鯉登さんはちゃんと覚えていた。
     『どうしても、お礼がしたくて。』
     はにかんだ笑顔でそう言った鯉登さんは、俺には天使か何かに見えた。

     それから友人としての付き合いが始まり、やがて、恋人と呼ぶような関係に変わった。
     男など色恋の対象に見たことは無かったが、鯉登さんは特別だった。
     何故だかわからない。理屈などどうでもいい。
     この人の手を離してはいけない。と、本能だか知れないモノが身の内からそう叫んでいた。
     自身の劣情に気付きはしたが、鯉登さんがそれに応えてくれる保障などなかったというのに、如何してだか、俺は躊躇いもせず鯉登さんの手を引き、鯉登さんは、俺の思う通りにそれに応えてくれた。
     今考えてみても奇跡だと思うが、その奇跡は、今も続いている。

    一緒に暮らし始めた当初は家事も分担して協力していたのだが、確かにこのところ、家事の大半を鯉登さんに任せきりにしていたのは事実だ。申し訳ないと思いながらも、此方の気遣いを喜んでくれているらしい恋人のその顔が、嬉しくないわけがない。
     細かいことは置いておいて、一つ咳払いをして鯉登さんに向き直る。
     「どうせ、出張の荷造り出来てないでしょう?」
     「っ…出張、とか、久しぶり過ぎて…」
     「そう思ったから早めに帰ってきたんです。手伝いますから、さっさと荷造りすませましょう。」
     にこりと笑ってそう言ってやると、鯉登さんはパッと顔を輝かせた。
     「っ…うん。あいがと…っ」
     ほんのり頬を染めて、少し俯いて。気恥ずかしそうに。嬉しそうに。笑う鯉登さんが可愛くて、思わずくしゃりと髪を撫でた。
     「わっぜ嬉しか…」と、小さく呟いた鯉登さんは俺の下心になんて、まるで気付いていないのだろう。本当に、可愛いったらない。

     都合五日分の荷物なんて、慣れた人間の手にかかればあっという間だ。大抵のものは滞在先のホテルに揃っているし、海外に行くわけじゃなし、余程困ったら向こうで買えばいい。必要最低限の着替えと、常備薬。それだけあれば十分。
     「…魔法か?…」
     心底感心した様子でそう零した鯉登さんの顔を見ると、出逢った頃によく見た様な、きらきらとした真直ぐな目で俺を見ていた。
     「そんなに言う程ですか?」
     「じゃって、何をどう用意するとか考えてもいなかったし、こんなに早く用意出来ん…凄い…魔法じゃ。」
     「そこまで褒められるほどじゃないですよ。」
     「褒める。褒めるとか、偉そうじゃけど…あいがと。助かった。今日、寝る暇あるじゃろかと思うとった…」
     ホッとした様子の鯉登さんに、寝られるかどうかは別の話だと言ったらどんな顔をするだろう?言ってしまったら、拒否されてしまうのは明白だ。さて。どう切り出したものか。
     「…月島が居てくれて良かった…」
     少し俯いて、薄ら朱の射した頬に笑みをして。鯉登さんがそう零した途端、今の今までどうやってことに及ぼうかなどと思いあぐねていたのが嘘のように、思わず衝動的に手を伸ばしてしまった俺をどうか許して欲しい。
     何の段取りも全部すっ飛ばして、傍らに立つ鯉登さんの肩口を掴むと、勢いそのままキスをした。キスを、してしまった。
     「っ!?」
     ちゅ、と、軽く音をさせて、啄ばむだけのキスをひとつ。不意打ちに驚き、目を見開いたままの鯉登さんに微笑んで、今度はゆっくり唇を重ねると、鯉登さんはぎゅっと目を瞑って口も堅く結んでしまった。
     「鯉登さん…」
     触れただけの唇は直ぐに離して、吐息の触れそうな距離で名前を呼んでやると、薄く目を開いた鯉登さんと眼が合った。
     「…ダメ、だ…っ」
     次いで聞こえたのは、予想通りの言葉だ。
     「…どうして?」
     「っ月島、も、仕事だし、明日から、出張だし…」
     「明日は移動だけですよね?」
     「っ…じゃっでん…」
     「俺は大丈夫ですから。」
     にこりと笑って口付けようとすると、寸前で鯉登さんの手にそれを阻まれた。
     「っ金曜、まで、待って、くいやい…っ」
     「…金曜?」
     「金曜の内には、帰るから…っ」
     「金曜って…週末の?」
     「そう。…っそしたら、土曜は、月島も休みだから…だから…」
     何を気兼ねすることも無く…と、鯉登さんはそう言いたいらしい。なるほど言い分は尤もだ。尤もどころか、其の日は端っからそうするつもりでいた。けれども、それまで待て、というのは心外だ。
    明日から鯉登さんが居ないというのに。
    電話もLINEもあるのだから、連絡はいくらでも取れるし、声も聞ける。けれども、そういう問題じゃない。それだけじゃ足りない。
    ほんの五日程度とは言え、触れることが出来なくなる。それが一番の問題だ。それなのに、お預けだなんてあんまりだ。
     「…だから…」
     「待て。って?」
     「…うん…」
     「俺が、待てると思います?」
     わざとそう聞いてやると、鯉登さんは頬の朱色を濃くして息を呑んだ。拒むふりをして、本当は期待している癖に。そう思われるのが嫌なんだって、恥ずかしいんだって知っているけれど。もっと恥ずかしい顔も、声も、とっくに知っているのに。知られているのに。
    初めての頃から変わらない、初心な反応を見せるのが堪らなくて、肩を掴んでいた手でするりと鯉登さんの首筋を撫でて、それからその手でゆっくりと鯉登さんの頬を撫でた。掌に触れる肌は温く火照っている。次に俺が何を言うかなんて、もうとっくに解っている筈だ。
     「…待てない。」
     ぼそりとそう零して、捉えた鯉登さんの頬を上向かせると、鯉登さんは再び固く目を閉じて、唇を真一文字に結んでいた。せめてもの抵抗のつもりらしい。
    そんな鯉登さんが、いじらしくて、滑稽で、愛おしくて。朱に染まった頬に、閉じた瞼に、口の端に。触れるだけのキスを繰り返した。そうしたところで一向に開きそうにない頑なな唇を舌先でちろりとなぞると、ふ、と、息を漏らして鯉登さんが漸く唇を開いた。
     薄く開かれた下唇を食むように口付けると、鯉登さんは瞼を震わせて薄らと目を開いた。責めるような、縋るような…それでいて、欲に呑まれかけた潤んだ眼が、間近に見詰めてくる。
     べろりと上唇を舐めて、唇を解放してやると、濡れた唇は「月島…」と、俺の名を呼んだ。
     それは、制止の声だったか、期待の声だったか。
     「…酷くは、しませんから…」
     その声に応えるように、努めて穏やかにそう言って微笑んでやると、鯉登さんは深く息を吐いて緩く目を閉じた。どうやら、了承は得られたらしい。或は、諦めか知れないが。
     「…愛してますよ。」
     言い訳のようにその言葉を使うことに罪悪感が無いではないが、本心には違いない。
    ポツリと呟いて再び口付けると、今度は、鯉登さんはすんなりと唇を開いて俺の舌を受け容れた。
     歯列を割って差し込んだ舌で歯裏をなぞり、くちゅりと水音をさせて舌を絡めると、応えるように鯉登さんが舌を擦りつけてくる。温いその感触に満足しながら、上へ、下へと擦り合わせて唾液を絡めると、鯉登さんが縋るように俺のシャツの胸元を掴んだ。
     「っ…ん…っ、ふ……っ」
     重ねた唇の隙間から漏れる吐息に籠る熱を確認して、頬を捉えていない方の手で鯉登さんの下肢に触れると、瞬間的にびくりと肩先が跳ねて鯉登さんが身体を強張らせた。
     跳ねた拍子に離れそうになった唇を逃がさないように、頬を捉えた手を鯉登さんの後頭部にずらして深く口付けると、逃げられない身体の代わりに鯉登さんの舌が喉奥に逃げ込もうとしたが、それを許す筈がない。
     「っんぅ…っん…んんっ」
     逃げる舌を絡め取って、吸い上げる。ひくりと跳ねる舌を貪る様に。角度を変えて、何度も、何度も口付ける。そうしながら、服の上から鯉登さんの下肢の輪郭をなぞる様に掌を押し付けると、鯉登さんは切なそうに眉根を寄せて腰を揺らした。
     「っは…ぁ…っ…ぅ…ん、ん…っ」
     下肢に這わせていた手でベルトを外し、ジッパーを下ろした隙間から手を入れて、下着の上から鯉登さん自身に触れると、既に熱を持ったそれが震えて下着を濡らしているのが解る。焦らす様に、指先で輪郭をなぞると、シャツに縋っていた鯉登さんの手に力がこもった。
     「っふ、ぅ……っ…ぅぅ…っん、ん」
     もっと、と、強請る様に舌を差し出しながら、鯉登さんは十分ではない呼吸に苦し気な息を漏らす。名残惜しくはあるが、絡めた舌を強く吸い上げて唇を解放してやると、鯉登さんは、は、と、大きく息を吐いた。
     「っ…ぁあっ!…っぁ、ぅ…っ」
     息を吐いたその口が、叫ぶように声を上げたのは、鯉登さんの下肢に直接触れたからだ。下着の隙から手を差し込んで掌を擦り付けると、先走りに濡れたぬるりとした感触が指に絡む。
     「あ…っは、ぁ…っ…あ、あ、…っ」
     緩く扱いてやると、鯉登さんは俺の肩口に額を預けて震え始めた。がくがくと震えてよろける身体を支えるように背中に手を廻し、此方に体重を預けるように仕向けると、鯉登さんは素直に従って縋りついてくる。
     「っ…ぁ、…っつき、し、…っぁ、ぁ、…っもぉ…っ」
     絡めた指にほんの少し力を加減して、先走りで濡れた手でぐちゅぐちゅと音をさせて扱いてやると、忽ち熱を増した下肢がびくつき始めた。
     「イって良いですよ…」
     真っ赤に染まった耳にそう言ってやると、鯉登さんはいやいやをする小さな子供みたいに首を横に振って震えた。
     「っや…っ…ヤダ…っ…つき、…ま、一緒に…っ」
     いつもそうだ。泣きそうな声で、一人でイクのを嫌がる鯉登さんは、俺に気持ちよくなって欲しいのだと繰り返す。自分だけよくなるのが嫌なんだと。俺を置いて行くようで、一人で気持ちよくなっているのが嫌なんだと。そんなことは全然ないのに。
     「音之進…音…大丈夫だから…」
     「っゃ…嫌…っぁ、っや、やぁ…っあ、っあ、っん…っ」
     「俺の手でイって?」
     慰めるようにそう声を掛けてやると、鯉登さんは震えて声を漏らし、あっけなく精を吐き出した。
     「っは…っはぁ、ぁ…っ…っは、…っ」
     「可愛いよ。音。」
     今にも膝から崩れ落ちそうな身体を抱き寄せ、肩で息をする鯉登さんの髪に口付けると、シャツを掴んでいた鯉登さんの手がゆるゆると背中に回され、身体ごとすっかり預けてきた。
     「…いい子だ。」
     小さく呟いて背中を撫ぜてやると「つきしま」と、甘えるような声で俺を呼ぶ鯉登さんは、どうやらもう自力で立っているのは無理なようで、ほんの少し力加減を誤れば、この場に座り込んでしまいそうだ。
     「ここでいいですか?それとも、ベッド?」
     「…ベッド、が、いい…」
     抱き寄せた鯉登さんの額や、頬に口付けながら問うてやると、甘え切った声がそう答えてきた。
    ベッドまでは僅かの距離だ。支えて歩くかと一瞬考えて、次の瞬間には、解った。と答えて鯉登さんを抱き上げていた。
     決して軽くは無い身体だが、慣れたモノだ。
     慣れているのは鯉登さんも同じで、抱え上げられると直ぐに首元に腕を廻して、落とされないようにしがみついてくる。
     俺の頭を抱えるようにして、縋る鯉登さんの漏らす吐息が耳元を擽る。吐息に籠る熱に煽られながら辿り着いたベッドに鯉登さんを下ろすと、口付けを繰り返しながら、服を脱がせていく。
    キスの合間に一枚、一枚、脱がせていって、すっかりそのままの姿になった鯉登さんにのしかかろうとすると、鯉登さんは半身を起こしてそれを制し、俺にも脱ぐようにとその眼で訴えた。抗議の滲むその眼に苦笑して、身を起こす。
     「…解りましたよ。」
     そう答えて乱暴に服を脱ぎ捨てると、鯉登さんはうっとりとした顔で俺を見詰めて微笑んだ。
     「…満足ですか?」
     「うん。」
     こくりと頷いて腕を伸ばしてくる鯉登さんに圧し掛かると、首もとに腕を廻しながら「…やっぱい、月島はよかにせじゃ…」と呟く声が耳元を擽った。恥ずかしいのか、ちらとその顔を窺うと、耳まで真っ赤だ。
     「音さんは、可愛いですよ。」
     心からそう思って、朱に染まった耳に唇を寄せると、鯉登さんはぎゅう、と、縋りついてきた。
     自分から強請っておいて、そうやって恥ずかしがるところも、嫌だと言いながら、結局は俺の要求に素直に答えてくれるところも。全部。貴方ほど、可愛いと思った相手は他にない。
     それがきちんと伝わっているかは知れないが…。
     唇を寄せた耳元をべろりと舐めて、耳裏から、首筋に舌を這わせていく。皮膚の薄い、敏感な部分に痕を残してしまいたい衝動に耐えて、触れるだけのキスを首筋から鎖骨に繰り返しながら、枕元のローションに手を伸ばして片手でキャップを外し適当に指を湿らせる。手に取ったローションを指に馴染ませるぐちりという水音が先を期待させるのか、鯉登さんの肌が俄かに泡立って、薄らと汗が滲んだ。
     半身を起こしていた鯉登さんをゆっくりとベッドへ沈め、鎖骨から胸へと舌を這わせる。そうするうちに、首に縋っていた鯉登さんの腕は解かれ、その手は白いシーツの上を頼りなく彷徨い始めた。
    口付けるたび、舌を這わせるたび、シーツに皺を作っていく鯉登さんの手を眼の端に捉えながら、濡らした指先で鯉登さんの後孔を探り、ローションを擦り付けるように円を描いて入口をなぞると、熱を持ったそこが、ひくひくと反応した。
     「っん…っぁ……ぁ、ぁ」
     下肢に触れていない方の手で、吐息に合わせて上下する鯉登さんの胸を下から包むようにして柔らかく揉みしだくと、鯉登さんは切なそうに声を漏らした。
     「っはぁ、…っ…あ、ん、…っぅ…んんっ」
     固く立ち上がった乳首に舌を這わせ、口に含んで吸い上げると、漏れる声が一層高くなる。
     「っや、っあ!…っゃ、…っ胸、や、だぁ…っ」
     ふるふると首を横に振ってシーツに髪を散らす鯉登さんを見ると、もっと可愛がってやりたくなる。乳首を口に含んだまま、舌先を強く擦り付けると、鯉登さんはびくりと跳ねてシーツを蹴った。
     「っああ…っぅ…ゃ、…や、だぁ…っ」
     ボロボロと涙を零し始めた鯉登さんを、これ以上焦らすのは酷な気がして胸元から唇を離し「じゃぁ」と問いかけると、鯉登さんは、荒く息を吐きながら涙の滲んだ瞳で俺を見た。
     「『こっち』が良いんですね?」
     一応の断りを入れて、後孔を弄っていた指先をつぷりと入り口に挿入させると、鯉登さんは眼と口の両方を開いて、声にならない声を上げた。
     「っーーーーーっっ…っぁ、ぁ、…っ待っ…っ」
     「もう、待てないんでしょう?」
     挿入させた中指を根元まで飲み込ませて、ぐるりと内壁をかき混ぜてやると、鯉登さんはシーツをきつく掴んで身を震わせた。
     見れば、触れてもいないのに今ほど精を放ったばかりの鯉登さんの下肢が緩く立ち上がりかけている。身体の素直さは、俺の仕込みの賜物だと思いたいところだ。その反応に満足して、中をかき混ぜる指を、二本、三本と増やしていく。
     ぐちゅぐちゅと粘度の高い水音をさせて後孔が解れていくにつれ、鯉登さんの口から漏れる声も溶け切っていく。
     「っぁ…っぁ、ぁ、ん、…っ…ぅ、ん…っんん…っ」
     三本の指をすんなり飲み込むようになったのを見計らって、ずるりと指を引き抜くと、後孔は名残惜し気に指に吸い付き、欲を隠そうともしなかった。
     「っは…ぁ…ぁ…っ」
     後ろをいじられるだけで、すっかり立ち上がった熱を持て余して此方を見上げてくる鯉登さんの頬に口付けを落としてそっと身を離し、束の間背を向ける。ベッド脇のサイドチェストに常備してあるゴムを取出そうと手を伸ばすと、今の今までシーツを掴んでいた鯉登さんの手が伸びてきて俺の腕を掴んだ。
     熱の籠った手につられてベッドに横たわったままの鯉登さんを見遣れば、切なげな表情をして此方を見詰めてくる潤んだ瞳と視線が絡む。
     ゆるゆると首を横に振るその意味など、聞かずとも解る。けれども―
     「鯉登さん、今日は…」
     「よか…」
     「…でも…」
     「おいが、ええ、ち言うちょっ…」
     辛くなるのはあなたですよ。移動だけとは言え、明日も仕事だというのに。其れでもイイと仰るんですか?…などと、事をけしかけた俺が言えるわけも無い。
     「…わかりました。」
     短く答えて腕を掴んでいた鯉登さんの手を取ると、意図を察したのか、鯉登さんは促されるままに再び俺の首元に腕を廻して、はぁ、と、大きく息を吐いた。
     「いれますよ?」
     鯉登さんの好きな、少し低い声でぼそりと呟いて後孔に竿を当て、鯉登さんの返事を聞く前に、ぐずりと一息に突き上げた。
     「っひ!?…っぃ、ぁ、…っ」
     慣らしたとはいえ、指とは比べ物にならない体積に、鯉登さんの身体が怯んで受け入れを拒んでくる。何度抱いても、どれだけ、ぐずぐずになる程に抱きつぶしても、最初の挿入の時だけは慣れきることの無い鯉登さんの身体は、決まって新鮮に俺を受け容れる。
     「動きますよ?」
     「っぁ…っぐ、ぅ…っうぅ…っ」
     額に汗を浮かべ、必死に縋りついてくる鯉登さんの顔にキスを繰り返しながら、入れたままの屹立を中に馴染ませるようにゆっくりと腰を廻していくと、俺を押し出そうと強張っていた内壁が徐々に弛緩して、竿に纏わりついてくる。
     「はぁ…っぁ、ん…っ…ぅ、ん…っ」
     馴染んだところで、一度ゆっくりと入り口近くまで引き抜いて、それからもう一度、強く腰を打ち付けると、鯉登さんの一番奥まで届く。ぐちゅん、と、響いた水音と肉の擦れた音の混じったそれは卑猥だ。
     「ぃあ…っ!?…っあ、ぐ…っぅ…うぅ…っ」
     奥まで届いた亀頭で鯉登さんのイイところをぐりぐりと擦ってやると、鯉登さんの身体が戦慄いて、その眼が焦点を失い始める。
     「っあ、ぅ…うぅ…っぁ、ゃ、…ぁ、あっ…っ」
     腹裏の内壁をなぞる様に竿を抜き、鯉登さんのイイところを狙って挿入を繰り返す。ぐちゅぐちゅと、水音が耳に煩い程に響く中、その音が聞こえているのか、いないのか。
    空を見詰める鯉登さんの瞳からは、ひっきりなしに涙が零れている。開いたままの口から漏れ聞こえるのは、意味をなさない声ばかりだ。
     「っは、…はー…は…っぁ…ぁ、…っぅ、あ、ぁ、…はぁ、ぁ」
     すっかり弛緩しきった身体は、易々と竿を飲み込み、もっと、もっとと蠢いて快楽を求めてくる。
     「…音…音之進…可愛いよ…」
     繰り返し、囁いてやると、その度に内壁が締まって、俺ごと飲み込んでしまいそうだと錯覚させる。
     「っぁ…ぁ、つき、し、…っぅ…ん、…っふ…っ」
     内側の熱に求められるまま、鯉登さんの腰を掴んで激しくピストンを繰り返すと、鯉登さんの漏らす甘い悲鳴と、下肢から響く水音が混じって耳を侵し、くらくらと眩暈をさせる。
     「っあ、っあ、…っや、ぁ、待っ…っ激、し…っぅ…ぐ、ぅぅ」
     夢中になって腰を打ち付けていると、鯉登さんが苦し気に声を漏らし、必死に縋りついてきた。
     「はぁ…っ…あ、あ、…っぐ…っくぅ…っん、…っぁ、ああっ」
     それでも、下肢に与えられる快楽に抗えずに鯉登さんを揺さぶり続けていると、不意に、耳元に不穏な声が届いた。
     「っは、ぁ、…っや、ぁ、…っぁ、…こわ、い…っ怖い、ぃ…っやだ…っや…助け、てぇ…っ」 
     涙声は甘い中に確かな怯えが潜んでいて、ハッとなって動きを止めると安堵したのか、鯉登さんは、はぁ、、大きく息を吐いて、ぎゅう、と縋りついてきた。
     「っ…お願、…もっ…と、ゆっくり…っ」
     「…それで、満足できるんですか?」
     懇願するその声に、意地悪く笑ってそう答えると、予想はしていたのか、鯉登さんは責めるような目で俺を見て「っ…意地悪…っ」と小さく零した。
     確かに俺は意地悪だろう。こんなに可愛い鯉登さんを見てしまったら、苛めたくなっても当然だ。
     「…ごめんなさい。」
     それでも、一言だけそう謝って、再び腰を進めると、鯉登さんはひくりと喉を反らせて声を上げた。
     「つきしま、の、馬鹿ぁ…っ…っあ!…っあぁ!!」
     わざと鯉登さんのイイところばかりを狙って内側を抉ると、鯉登さんは最早抗議の声を上げることなく、意味をなさない嬌声だけを漏らし始めた。
     「あぅ!…っう、…っく、ぅ…っあ、あ、…あぁー…あー…っ」
     ボロボロと涙を零して縋りついてくる鯉登さんが愛おしくて、堪らず声を漏らし続ける口を塞ぐように深く口付けた。
     「んぅっ…っんん…っっーーーーっ」
    そのまま一際強く腰を打ち付けると、鯉登さんは大きく身を震わせて白濁を吐き出した。
     きゅう、と、締め付けてきた内壁に絞られて、鯉登さんの中に精を吐き出すと、無意識なのか、鯉登さんが足を絡めて俺を逃すまいとしてくる。
    そんなことをすれば、全部中に吐き出すことになってしまうのに。そうなれば、辛い思いをするのは自分だというのに。それでも、事に及ぶと決まって俺の種を欲しがる鯉登さんをきつく抱き締め、重ねていた唇を離すと、鯉登さんはうっとりと微笑んで「つきしま」と小さく声を漏らし、すぅ、と目を閉じて意識を手放した。
     腕の中で、くったりとなった鯉登さんに、今更、疲れていたんだろうと知らされる。そんなこと、聞くまでも無い事なのだろうけれど。
    愛しているのなら、鯉登さんを想うのなら、今日のような日に、こんなことをするべきじゃなかったのかも知れないけれど。それでも。
     「音之進…」
     ずるりと竿を引き抜くと、後孔からとぷとぷと吐き出した白濁が零れていく。
    鯉登さんが眠っている間に、後始末くらいはしておこう。眼を覚ましたら、風呂に入れてやって、食事は朝になるかもしれない。
    出発は午後だと言っていたから、少しの猶予はあるだろう。
     「…ちゃんと、帰ってきてくださいね?」
     まさか帰ってこないだなんて、そんなことは思っちゃいないが、それでも、明日からの不在を思うと不安になる。馬鹿げた話だと我ながら思うが、どうやら、自覚していた以上に、俺は鯉登さんに依存しているらしい。
     鯉登さんは、俺が居て良かったとそう口にしたが、それは俺の台詞だ。
    鯉登さん。音之進。貴方が居てくれてよかった。貴方に出逢えてよかった。貴方が、俺を、選んでくれて、本当に良かった。きっと、俺はもう、貴方無しでは居られないんだ。
    だから、どうか…
     
    「…愛しているんです…本当に……貴方だけ…貴方だけなんです…鯉登さん…音之進…」

     零れた言葉に返事は無い。
    けれども、眠っている筈の鯉登さんの頬が、ほんの少し色付いて微笑んだ。ように見えた。

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    fujimura_k

    PAST23年8月発行『未明の森/薄暮の海』現パロ月鯉
    本編『未明の森』の鯉登サイドの後日談のような話。発行当時は別冊としてお付けしました。本編をご覧になった後にこちらをご覧ください。
    薄暮の海その海ならば、溺れて、沈んでも構わない。その海ならば―


    あの日から、間も無く十二年が経とうとしている。
    八月二十八日。一緒に花火を見たあの公園で。
    そう約束したあの時、十二年という月日は途方も無いように思えたが、過ぎてしまえばあっという間だった。
    十二年。約束を忘れることは無かった。一日千秋の思いで待ち続けて、その日を目前に控えてふと気付いた。
    日付と場所は確かだが、何時にとは約束しなかった。と。だから何時に行けばいいのか見当もつかなくて、それなら朝からずっと待っていればいいじゃないと開き直ったのは約束の十日前だった。
    待合せには絶対に遅れなく無い。もしも擦れ違いになったりしたら。そう考えただけでゾッとして、遅れずに済むようにと、待合せ場所の近くに前日から泊ることにした。けれども宿は直ぐには見つからなかった。夏休みでホテルが満室、なのではなく、ホテルそのものがその一帯には殆どなかったのだ。どうにか見付けたのは、十二年前には花火が上がっていた、その港近くにある小さなビジネスホテルだった。
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    fujimura_k

    DOODLE23年5月発行『泡沫寓話』独り者の月×人魚鯉
    村はずれで暮らす独り者の月島が人魚の鯉登と出逢い、互いに惹かれあうようになり…という寓話です。人魚のお話だけれどもちゃんとハッピーエンド。
    泡沫寓話 昔々或るところに、ひとりの男が居りました。
     男は港のある小さな村の片隅に、独りきりで暮らしておりました。
    男は始めから独りでいたのではありません。男には父も母もありましたが、男が物心ついたころには既に母の姿はなく、酒ばかり煽っては幼い男に手を上げ続けていた父は、ある日ころりと息を引き取りました。
    過ぎた酒の所為だったか、成長した男が父の暴力に対抗した所為であったか、真相は定かではありません。けれども、村の誰しもが、男の父の死の真相を付き止めようとはしませんでした。村の厄介者が減って、皆ホッとしたのです。『厄介者がひとり居なくなった』村の衆にはその事実だけで充分でした。
    けれども、村の衆には男が新たな『厄介者』となりました。厄介者と同じ血を引く男は、己の父親を手にかけたのかもしれない男とも見られました。村の衆は男を居ないものとして扱うようになりました。男には『月島基』という名がありましたが、その日から、男の名を呼ぶ者はひとりも居なくなりました。斯くて、男は独りきりになり、淡々と、ただ、淡々と生きているというだけの日々を送るようになりました。
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