塩谷沙都の煉獄 * * *
塩谷沙都は夢を見ている。
五月にしてはやけに蒸す夜、何やら甘ったるい花の匂いを嗅ぎながら、コインランドリーで洗濯が終わるのを待っている。
そういえば今日は自分の誕生日ではなかったか。いや日付が変わってすでに昨日か。二十代最後の年だね、と人に言われたのが去年のことにも随分と昔のことにも思える。
自分は何歳になったのだろう。コイン式洗濯機の中でぐるぐると回る衣服を眺めながらぼんやりと考えて――洗濯槽の中でかき回されているミンチ肉に気が付いた。そうだ、この血まみれでぐちゃぐちゃになった肉の塊を取り出さないといけないのだった。
原型のわからないほどに細かく刻まれた肉を取り出すのには苦労した。何せ掻き出すための自分の腕が端からぽろぽろと崩れてしまってミンチ肉と一体になってしまうのだ。苛立ちながら肉と格闘していると、後ろから呼びかけてくる者がある。
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