たからものひとつ 俺は、かけがえのない宝物を手に入れてしまった。璃月に古くからある書物や置物などは、研究や保管に必要だと言われれば、惜しむらくも手放すことができるだろう。
しかし彼だけは、いくらモラを積まれ三日三晩懇願されたとしても、他の誰かに渡すことなど、到底できる気はしなかった。
「鍾離様?」
「魈、おはよう」
「おはようございます」
薄目を開けてぼうっとしているのが魈の目に入ったのだろう。起きたのならと、寝台で横になっている魈の身体を引き寄せた。腕に抱けば自分の身体にすっぽり収まってしまう彼の体躯は、柔らかいとは言い難いが、とても抱き心地が良い。温かい体温と、僅かに感じる魈の匂いは心を落ち着かせ、ここから出る気すら失せてしまうから不思議である。
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