「人を不幸にするマジシャンか」
スマホの画面を見ながら俺は呟いた。
「KK、どうしたの?」
気になったのか絵梨佳が俺に声をかけてきた。
「お子ちゃまには早い代物だよ」
「なによ!もう!」
彼女は頬を膨らませた。
「私にも見せてよ」
いつの間にか隣にいた凛子が俺の手からスマホを奪い取った。そしてじっくりとその記事を読み始めた。
「人を不幸にさせるマジシャンね。確かに気になるわね」
「だろ?」
「でも、この人の話だと、ただ単に運が悪いだけじゃないのかな?それに、この記事を書いた記者さんだって、実際に見たわけじゃなくて、人から聞いた話を記事にしただけでしょ?なら、本当かどうか分からないし、気にする必要はないんじゃない?」
凛子はそう言うとスマホを返してきた。
「ていうか私にも見せてよ!」
「絵梨佳にはまだ早いものよ」
「これでも長く生きてるのに!」
「妖怪でもまだ子供だってことを理解しなさい」
「むーっ!!」
絵梨佳はまた頬を膨らませた。一件何処にでもいそうな少女なのだがその正体は猫の妖怪で、ある日凛子の家に駆け込んで匿ってくださいと土下座をして頼み込んだという経緯がある。それ以来二人は姉妹同士のような関係になっているのだ。
「ただいま戻りました」
そんな時、玄関の方から声が聞こえた。片手にビニールの袋を下げた少女が立っていた。。彼女の名前は麻里。狐の妖怪で絵梨佳とは親友同士である。
「おかえり、麻里ちゃん」
「はい、凛子さん」
彼女は持っていたビニール袋を差し出した。
「お使い頼んじゃってごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「麻里ちゃん、一人で暮らしてて大丈夫?」
「うん、お兄ちゃんが生活費とか入れてくれるから、何とかやっていけてるよ」
「早く見つかるといいね」
「うん」
麻里は俺に兄を止めてほしいと頼んだ張本人だ。彼女曰く、兄は私達を守るためなら自分がどうなってもいいと思っている節があるらしい。それ故に自分の身を犠牲にしてでも俺達に危害を加えようとするかもしれないとのことだ。だから、俺に止めて欲しいとお願いされたのだが・・・正直俺にできる事など限られていると思う。何せ相手は人間ではないのだ。普通の人間が太刀打ち出来るものではないだろう。だが、それでも彼女は兄を救いたいと思った。それがどんな結果になろうとも、彼女が幸せになれる未来を掴み取りたいと願ったのだ。
「でも、一体なにしてるのかなぁ?」
「生活費が入っているということは何処かで仕事をして入るという可能性が高い。危ないことに手を出してないといいが」
「里を襲撃する前はマジシャンで稼いでいたってお兄ちゃんが言ってたけど・・・」
「お金が必要になったとしても、わざわざ危険な仕事を選ぶ必要は無いはず」
「じゃあ、なんの仕事に就いたんだろう?」
「さあな。だが、何かしら手掛かりはあるんじゃないか?例えば名刺とか」
「名刺とかありませんが」
そう言うと麻里はスマホの画面を俺に見せてきた。そこには羽とリボンと花で飾り付けられた白いシルクハットが写ってあった。
「これは?」
「お兄ちゃんが最後に送ってきたメッセージです」
「へえ、これが最後か」
「うん、確か『安心していいよ』みたいなことが書いてあって・・・」
「その次が来なかったわけだ」
「はい」
前にあったときのあいつの姿を思い出す。確か、緋色のプリーツスカートを穿いて、袖の色が違うワイシャツを着て、体中傷だらけで、一番印象に残っているのは左の下まぶたの傷痕だった。あの傷は麻里が言うには自分の体に傷を移したのだと。何故、妹前から消えたのか?何故、傷を移したのか?疑問が残るなか、俺達は更に調査を進めた。しかし、有力な情報は得られなかった。暁人、お前は何のために・・・
「守りたいもののためなら俺は何だってやってやるんだから」
シルクハットを被った青年がボソッと呟く。観客の前で笑みを浮かべるとシルクハットを取ってお辞儀をした。