インターホンが鳴り、ドアを開けてみると見覚えのある顔がいた。ついでにKKも
「おじさーん!」
「元気にしてたか?」
「うん!」
麻人が勢いよく私の元へ駆け寄り抱きついてくるので抱き抱えた。
「麻人がお前に会いたいって言うから仕方なく連れてきてやったんだからな」
「彼とは上手くいっているのか?」
「まあな、連れてきたついででなんだがしばらく預かってくれねぇか?」
「保育園はどうしたんだ?」
「ヤベェもん憑いて臨時休園」
「御愁傷様とだけ言っておこう」
「あと仲良くしてやってくれよ、もし何かあったら暁人がすっ飛んでくるかもな」
「もちろんだ」
私は麻人の頭を撫でる。
「じゃあよろしく頼むわ」
そう言って彼は帰って行った。麻人はポツンとした顔でこちらを見つめている。とりあえずリビングへ通すとソファーに座っていった。私は冷蔵庫から見繕ったジュースとケーキをテーブルに置く。すると目を輝かせてケーキを手掴みで食べ始めた。本当に可愛らしい子だと思う。そんな姿を見ながら私は麻人に話しかける。
「最近いいことでもあったのか?」
「ないしょ」
最初に会った時と比べると子供らしさが増して表情も豊かになったと思う。だがまだ心を開いているわけではないようだ。それでも少しずつでも打ち解けていけば良いと思っている。私が起こした悲劇のせいでこの子はこの世界に産まれてきてしまったのだから、せめてもの罪滅ぼしとして育てていきたい。
「おじさんは何している人なの?」
「今は普通の科学者だよ」
「そうなんだ・・・」
「何の仕事をしていると思ったんだ?」
「うーん、あくのひみつけっしゃ?」
あの野郎私のことを何だと思ってこの子に話したんだ。まあ、同僚を騙していたことは間違いではないが
「クリームがついてるぞ」
「んっ」
頬についたクリームを拭き取る。
「おじさんやさしいね」
「そうか?」
「うん」
「君が昔の絵梨佳のように可愛いからついつい甘やかしたくなってしまうんだ」
そう言って麻人の頭を撫でる。とても柔らかい髪質をしている。癖になりそうで困るくらいだ。本当に可愛らしい子供だ。
「あのね、おじさん」
「どうしたんだ?」
「おねがいがあるんだけど、ママにはないしょにして」
そう言うと麻人は袖口から三枚の木札を溢すように床に出した。
****
「最近麻人くん、絵梨佳ちゃんのお父さんのところに遊びに行ってケーキ食べてきたって」
「お父さんもすっかり親バカになって一周回って困惑してる、し・・・」
「絵梨佳ちゃん?」
二人で歩きながら話していると絵梨佳ちゃんが急に足を止めた。
「あれって・・・」
絵梨佳ちゃんの目の前には面を着けた人物が立っている。そしてこちらに気づいたのかこっちを向いた。
「小面・・・」
小面の面を着けたその人物は絵梨佳ちゃんに向かって突進してくる。
「絵梨佳ちゃん!」
私は咄嗟に庇って、突き飛ばす。
「キャッ!」
「取りあえず逃げよう!」
「う、うん!」
絵梨佳ちゃんの手を引いて、その場から離れる。
「一体何なのあれ!?」
「前にお父さんが作った傀儡、でもなんで!?」
後ろから小面が追いかけてくる気配がする。必死に逃げるが相手は足が速く、しかも私たちも体力がない為すぐに追いつかれてしまう。すると何処からかショットが飛んできて小面に命中した。
「無事か!?」
「KKさん!」
「KK!怖かったよぉ!!」
二人で涙目になりながらKKさんに抱き付く。
「お前らどうしたんだよ」
「だってぇー!」
絵梨佳ちゃんはトラウマを刺激されたのか大量の涙を流していた。私だって怖かった。
「だってじゃわからん」
「あのお面を着けたあれが!」
絵梨佳ちゃんが指差すが、そこには黒いドロドロに溶けかけていた小面の姿があった。そして中から木札が出てくる。
「「・・・いぃやぁぁぁぁああああ!!!」」
あまりの恐怖に二人でKKさんに抱き付く力を強めた。その後、KKさんにことの顛末を話した。
「つまり小面が現れて絵梨佳に襲いかかった」
「はい・・・」
「怖かったよぉー!」
絵梨佳ちゃんは未だに泣きながらKKさんに引っ付いている。
「なんでそんなに怖がってるの?」
「だってあれ元々私の身体を傀儡にしてるんだもん!!」
「ええっ!?」
「お父さんが実の娘に手を掛けたんだよ!信じられる!?私魂だけになって本当に怖かったんだから!寂しかったんだから!」
KKさんの胸ぐらを掴んでグラグラと揺らして、泣きながら訴える絵梨佳ちゃん。KKさんは何も言わずに絵梨佳ちゃんを抱きしめ返していた。やがて絵梨佳ちゃんは落ち着きを取り戻し、KKさんから離れる。
「絵梨佳の方にも来ていたのか?」
「方にもってKKにも?」
「ああ」
****
暁人と二人ででかけていた時
「KK、あれ」
暁人の視線の先には痩男、そして翁の面を着けた人物がいた。
「倒したはずだけども」
「腑に落ちねえな」
「そうだね」
それぞれ襲いかかってくるが、暁人が指を鳴らすと、地面から大量の棘が生えて二人を串刺しにする。二人の胸ぐらを掴んで暁人は面を着けた二人に顔を近づける。すると黒くなりドロドロに溶けて、木札が落ちた。
「構造的に式神に近い・・・」
暁人は二枚の木札を拾い上げて、考え込む。この札はあいつが傀儡を作った時に埋め込まれていたものだ。とりあえずは暁人はその二枚の木札を懐にしまった。
****
「ってことが。ただおかしいことが一つ、本来ならあいつらはそれぞれマレビトに変化するはずだ。痩男は痩術鬼、小面は猫多羅、翁は槌蜘蛛、でもそれをせずに俺達に直接襲いかかって来て、しかも倒すとドロドロに溶けた」
「なんか変だね」
「あの物質はエドに調べて貰ってる。それと暁人から聞いたがあの木札はあの戦いの後、しばらく自分の方で保管していたが、先日急になくなってたそうだ」
「お兄ちゃんの管理が杜撰だからじゃない?」
「いや、元は引き出しの奥底にいれていたが今は鍵付きの箱に入れていた。でも最近鍵失くしたって聞いて・・・まさか」
KKさんが犯人に目星がつき、携帯を取り出す。
「暁人、麻人の様子を見てくれないか?・・・そうか」
「どうでした?」
「犯人がわかった、しかも二人」
****
「ごめんなさい!ごめんなさい!もうしません!ゆるしてください!!」
鎖と南京錠で閉じられた扉の向こうから悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「麻人?言ったでしょ?無闇に『力』を使わないでって?約束、守れなかったの?」
「だって!だって!」
「言い訳は聞きたくないから、しばらくそこで反省してなさい」
そう言いつけて、扉に鍵を掛けてその場を後にする。
「絵梨佳、大丈夫?怖かったね、よしよし」
凛子が絵梨佳の頭を撫でていた。案の定あいつが関わっていた上に麻人が木札を持ち出していたことが判明し、暁人は怒り心頭に発してあいつの元へ行きミノムシにして連れてきた。
「おいどう言うことか説明しろ」
「あの子が私に作り方を教えてきたのだが、あの時は器となる肉体があったのだが、今回はあの子の『力』を使って試作したのだ」
「試作だと!?ふざけんな!こっちはトラウマ刺激されてんだよ!!」
俺はあいつの胸ぐらを思いっきり掴む。
「あけてよぉ!あけてぇ!」
「お兄ちゃん、これやりすぎじゃない?」
「自分でも自覚してるけどこうでもしないとまたあんなことするかもしれないし、あのときは一週間悪夢を見続ける呪いを掛けたんだけど」
「で、今は?」
「部屋の中にちょっとしたものを入れた」
「多分ちょっとどころじゃなさそう」