「絵梨佳、余計な行動を取らないで」
「分かってるよそんなこと」
「はぁ・・・凛子ってお母さんみたい」
「絵梨佳、後でちゃんと聞かせてもらうからね!」
「はーい」
麻里ちゃんと別れて家に帰った私は凛子に注意され、適当に返事をして自分の部屋に入った。・・・凛子は心配しすぎなんだよね。私は凛子には麻里ちゃんが若頭とは言っていないし、私も麻里ちゃんに親がヤクザだとも言っていない。だから問題なんて起きないはずなんだ。それにしても、凛子は麻里ちゃんのことがヤクザだと分かったら怒るだろうな・・・私と凛子だって好きでやってる訳じゃないし、逆らえないから仕方なくやってるんだから。まぁ、凛子が怒るのはいいけど、麻里ちゃんが私のことを嫌いになったら嫌だし
「どうしよう・・・」
私はベッドに横になり、天井を見上げながらどうするか考える。やっぱり麻里ちゃんに正直に話して謝るしかないよね?だって、麻里ちゃんは友達だし、裏切ったら絶対に後悔しそうだから。
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「麻里ちゃん、あのお友達って何て言う名前なの?」
「絵梨佳ちゃんっで言います、名字は知りません」
真知子さんと将棋を指しながら、私は絵梨佳ちゃんのことで話していた。歩兵を進め、と金に成り、そこからさらに駒を打ち進める。
「いいお友達が出来たわね」
「はい、まぁ・・・そうですね」
真知子さんは私に向かってニコリと微笑むと、歩兵を取りながらそう言った。友達か・・・自分で言っててちょっと恥ずかしいけど、確かに絵梨佳ちゃんは私にとっては友達だ。でも、真知子さんの方が絶対に友達だと思ってる。私は将棋盤から視線を外さずに返事をする。
「ふふ、私にはお友達と言える人が誰もいないから、羨ましいわ」
真知子さんは飛車と角行で金を取った。・・・これ、詰みです。私は頭を下げる。
「参りました・・・」
「これで三連勝ね」
「やっぱり強いですね、真知子さんは」
「ふふ、ありがとう。でも私よりも月山さんの方が強いわよ?」
「それは嬉しいですけど、真知子さんと将棋を指すのが楽しいんです。だって結里さんはしつこくて御影さんは取っつき方が分かりませんし坂本さんは酒浸りで山口さんは脳筋ですし」
「まあ、間違ってはいないでしょうね」
まともに取っつけるのが真知子さんと月山さんと小鳥遊さんと玉置さんくらいしかいない。兄はまともだけど生活リズムがまともじゃない時がある。
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「あら~組長いつものありますよ~」
僕を出迎えたのは、舎弟の一人である雄華さんだ。本名は雄大なのだが、当の本人は「雄華ママって呼んで」といつも言っているので、僕は雄華さんと呼んでいる。普段はゲイバーを営んでおり、僕は客として結構遊びに来ている。
「ありがとう雄華さん」
「いえいえ~」
僕はカウンター席に座りビールを飲む。
「そうそう最近ここに警察の人がやって来たの!」
警察と言う単語に、つい咳き込んでしまった。
「大丈夫?組長?」
「大、大丈夫だよ・・・で、警察がどうかしたの?」
「うん、実はね、一昨日辺りに警察の人がお客さんで来たの」
「客としてか・・・ここゲイバーって知って来たのか?」
「知らずに来た顔してた」
なんか想像できるな。
「外見は?」
「私好みのイケオジよ!仕事疲れでやつれてたから、一杯サービスしたの!」
「雄華さんはそういう系の男性好きだからなぁ・・・」
「そうそう!でも、イケメンなだけじゃなくて、仕事も出来てね~」
「ふむ」
僕は顎に手を当てて考える。ここに来たということは目的は一つだろう。雄華さんが言う通りの刑事だとすると・・・やはり情報収集か?だとしたらかなりまずい状況だな。
「その人、KKって言ってたの」
「KK?」
「手帳は見せてきたけど名前を隠してて、それで如月会っていうのを調べていたの」
「如月会?」
前に結里さんから聞いた話、五年前に突如として現れて弱体化していった他の組織を吸収していったヤクザだ。その時、僕は父の代わりに組長になってバタバタしていた時期だった。
「もしかしてシマ荒らしとか?」
「たぶんそうじゃない?ここも合法的なシノギになってからたまにカチコミに来ることが多くなって、あ!最近如月会の人がここにカチコミに来てね」
「何人?」
「三人!それで締め上げたんだけど、大した情報は手に入らなくって強盗ってことでサツに引き渡したの!しかもチャカ持ってたからホント怖かったわ~」
雄華さんの見た目は女々しいのに中身はゴリゴリの極道者だから、やって来た人たちはきっと恐怖でしかなかっただろう。
「でねでねその刑事さんに如月会の人が来たって言っておいたの、そしたらまた来るって言ってくれて嬉しかったわ!」
雄華さんは僕の肩に手を置き、耳元に口を近づけてそう言ってきた。僕は苦笑いをしながら雄華さんの手を退かして残りのビールを一気に飲み干した。