「お邪魔しまーす」
「あら絵梨佳ちゃんいらっしゃい」
麻里ちゃんの家に遊びに行くと真知子さんが出迎えてくれた。
「浮かない顔色だけど何か悩みでもあるのかな?」
「えっ?」
「だって顔に出てたから」
指摘されて赤面する。
「まあ、ちょっと」
「そう? それなら良いんだけど。凛子ちゃんならいつもの場所にいるけどどうする?」
「・・・いや、今日は真知子さんでお願いします」
「ふふっ、やっぱり話したいことがあるのね」
この人の前では隠し事はできないと思い、凛子には申し訳ないが真知子さんに相談に乗ってもらうことにした。
「あの、人を好きになった時ってどう気持ちの整理をつければ良いんですか?」
「私も若い頃に恋愛したことあるけど、常にその人の事ばかり考えてて大変だったな~」
「それで、どうやって折り合いをつけたんですか?」
「私はね、自分からプロポーズをしたのよ。この機会を逃したらもう二度と会えないかもしれないって考えちゃって。今思えば若かったわね」
「それで、返事はどうだったんですか?」
「返事? OKは貰ったけどね・・・」
真知子さんは遠くを見るような目で答えた。
「そう・・・ですか」
「だから絵梨佳ちゃんも後悔しないような選択をしなさい」
「はい」
「ところで、絵梨佳ちゃんの好きな人ってもしかして麻里ちゃんのこと?」
「なっなんで!?」
「だっていつも一緒にいるし、凛子ちゃんから聞いた話だと家に帰っても麻里ちゃんのことばかり話してるって。それにあなたの仕草を見ていると本当に好きなのね」
「えっ、いやっ、そういう訳では」
「違うの?」
真知子さんの目は優しくもあり鋭くもある。全てを見透かされているようなそんな目だ。
「・・・はい、そうです」
「まさか女の子を好きになるなんてね」
「変じゃないですか?」
「変じゃないわよ。人を好きになるってとても素敵なことだと思うから」
「でも麻里ちゃんに言って嫌われたらどうしようってなって」
「大丈夫。それは絵梨佳ちゃんの思い込みよ」
「そうでしょうか?」
「私が保証するわ。だから自信を持ちなさい」
真知子さんは私の頭を撫でながら優しく言う。その手がとても心地良かった。
「ありがとうございます」
「頑張ってね、応援してるから」
真知子さんは背中をポンを叩いて気合を入れてくれた。
「はい!」
****
「麻里ちゃん、入るよ」
ドアをノックして入る。
「あ、絵梨佳ちゃん」
部屋では麻里ちゃんが大きめのクッションに寄りかかってスマホを見ていた。
「えっと、話があるんだけど・・・」
麻里ちゃんはスマホを傍に置いて聞く姿勢になった。
「何?」
「あのね、その、何て言うか」
言葉が上手く出せず、喉元でつっかえてしまう。
「大丈夫、落ち着いて話して」
「うん・・・」
麻里ちゃんは優しく私に言葉をかけてくれる。そのおかげで少し落ち着きを取り戻すことができた。
「麻里ちゃんに、何て言えばいいのか・・・その、あの」
「あーもう早く言えや!!」
痺れを切らした麻里ちゃんが血相を変えて急かしてくる。
「えっとえっとで分かるか!!イライラすんだよ!!」
「あの、ごめんなさい」
あまりの豹変ぶりにびっくりして思わず謝ってしまった。
「あっごめん。つい怒鳴っちゃった」
麻里ちゃんはハッと我に返り謝る。
「ううん、大丈夫」
「ちょっと取り乱しちゃったね」
「それで私、麻里ちゃんのことが好きなの!」
「!?」
「だから私と付き合って!」
やっと言えた・・・ようやくこの気持ちにケリをつけることが出来た。
「えっとそれってどういう意味?」
「恋愛的な意味で麻里ちゃんのことが好きなの!」
「・・・私、女の子だよ?」
「うん、知ってる」
「気持ち悪いとか思わないの?」
「思わないよ。だって好きになっちゃったんだもん」
麻里ちゃんは顎に手を当てて何やら考え始めた。そして考えがまとまったのか口を開いた。
「・・・つまり恋人ってことだよね?」
「そうだよ!」
「私でいいの?」
「だから麻里ちゃんに告白したんだよ!」
顔を近づけて必死に訴える。
「じゃあ、私も好き」
「・・・えっ?」
麻里ちゃんのその一言で頭が真っ白になった。そして頭が状況を整理する頃には歓喜の波が押し寄せていた。
「嬉しい・・・」
思わず涙が溢れる。麻里ちゃんはそれを優しく拭ってくれた。
「これからは恋人としてよろしくね!麻里ちゃん!」
「こちらこそよろしくね、絵梨佳ちゃん」
「あらあらお熱いわね~あの二人」
「ま、麻里が、がが、お、女の子と、つ、つつ付き合っ、てて、キキキキ」
二人の様子を見守っていた真知子さんと麻里が女の子と付き合い始めたのを見てバグった暁人であった。