「♪走れソリよ~♪風のように~」
朝っぱらから暁人がノリノリでリビングを飾り付けする。カレンダーには25日に赤字でクリスマスと書かれている。
「KK!」
「なんd」
暁人から有無を言わさずに頭にトナカイの耳のカチューシャをつけられる。
「何でだよ」
「クリスマスだから」
「拒否権」
「あ、KKに拒否権は無いよ」
「理不尽」
「文句言わない」
「・・・はいはい」
「はいは1回!」
暁人の勢いに負けた。KKは大人しくトナカイのカチューシャを付けると、渋々パーティーの準備を始める。とはいえ、料理をするのは暁人なので俺は飾り付けに回るが
「KKって飾り付けのセンスないね」
グサッという音がするくらい心に響いた。俺はちょっと涙目になりながら飾り付けをする。こういうのはあまりやったことがないんだよ。
「・・・おはよう」
寝ぼけ眼の麻人がリビングに入ってくる。時計を見ると9時を過ぎていた。
「麻人、今ご飯作るから待ってて」
「・・・パパあたまになにつけてるの?」
「トナカイの角だ」
「トナカイ?」
「クリスマスにトナカイがサンタを連れて子供にプレゼントを配るんだ」
「ふーん・・・サンタなんていないのに」
子供ならもう少し夢を見てくれ。そう思った俺であった。
****
「「「メリークリスマス!!」」」
一斉にクラッカーを鳴らす。麻里に凛子や絵梨佳、さらに今回は有無を言わさずエドやデイルまでも家に呼んだ。ついでに絵梨佳の父親も。机の上にはピザや丸鶏、ケーキがあるが全部暁人が作ったものだ。
「大所帯だなぁ~」
人の姿になったアキがこの光景に、懐かしむような悲しむような声を上げる。
「まあね、今回はいつもと訳が違うし」
凛子はピザを頬張りながら返事をする。俺もピザを食べる。美味いな。トナカイの角を付けたまま食べるのがちょっとアレだが。
「KKも楽しんでる?」
暁人がジュースの入ったコップをこちらに差し出す。俺は黙ってコーラを受け取って飲む。
「パパ、あーん」
麻人がチキンを差し出す。俺は無言で食いつく。うん、美味いな。
「麻人、お返しだ」
俺はピザをちょっと切り取って麻人に差し出す。
「あーん」
麻人も嬉しそうにピザを食べる。可愛い奴だな。
「お兄ちゃんこれ美味しい!」
「じゃんじゃん食べていいよ、おかわりいっぱいあるから」
「聞くけどお前これ午後に全部作ったんだよな?」
「そのためにオーブンレンジ3台フル稼働でやったし」
電気代が心配になりそうだが・・・まあ、いいか。
「そもそもクリスマスってなんだ?」
《クリスマスとはイエス・キリストの降誕を祝う祭で───》
エドがアキにクリスマスとは何かをボイスレコーダーを再生させて説明する。これはしばらくは離れられないパターンだ。
「今出まーす」
ドアチャイムが鳴り、暁人が玄関に向かう。
「誰か呼んだっけ?」
「やあ」
祟り屋が三人揃って入ってきた。手元にはラッピングされた箱がある。
「頼んだものできたんですね」
「何頼んだんだ?」
「麻人のクリスマスプレゼント、とりあえず」
暁人の顔から笑顔が消える。
「お前らとっととお帰りやがれくだせぇ」
そう言って箱を取り、祟り屋を玄関から閉め出した。麻人の誘拐の件を未だに引きずってるのか。
「お兄ちゃんなんだったの?」
「プレゼント届けに着たブラックサンタ三人組」
「え?大丈夫?」
「襲撃しに来たら追い返せばいいだけだし」
「うちの兄が物騒過ぎるけど丸鶏チキン美味しいからいいや」
麻里はチキンを頬張りながらそんなことを呟いた。
「麻人~クリスマスプレゼントだよ~」
暁人は箱を麻人に渡す。
「あけていい?」
「いいよ」
麻人はリボンを外して包装紙をビリビリに破く年相応の開け方をしていた。中に入っていたのは、水色と黒のゴシック系の服を着た女の子の人形だった。
「ママ、ありがとう!」
「あ、麻人ぉ!!」
麻人からの感謝の言葉に感極まった暁人は麻人を抱きしめる。俺はその光景をスマホに収めていた。
「あいつらこんなもん作れたのか」
「言っとくけどただの人形じゃないよ」
「だろうと思ったわ」
【おまけ】
「お父さん大丈夫?」
「少し飲み過ぎただけだ」
「俺も・・・」
絵梨佳の父親とアキが完全に出来上がっていたのを俺達は眺めていた。
「で、これはなんだ」
「酔いつぶれた人達」
「邪魔するぞ」
「帰れ!!」
窓から入ってきた祟り屋に暁人はキレて窓枠を壊す勢いで追い出した。