鏡界の君「エラン・ケレス」の人生に、「俺」としての時間はほとんどない。
現在の「ソイツ」は飾り立てられた瓶であり、それだけが全て。だから中身が本物だろうが偽物だろうが、そこは大した問題じゃない。今や見るヤツによっては、本物の俺こそが偽物の「エラン・ケレス」に見えることだろう。
つまり誰でもあるということは無いが、誰でもないということではある訳だ。
その事で憂鬱になったり鬱屈したり、悲嘆し苦悩し自暴自棄になる……なんて時期は、とうに過ぎている。そんな初々しい感情があったかどうかすらも、今となっては怪しいもんだ。
そんな訳で今日も今日とて元気に暗い部屋。スクリーンモニターだけが光るその密室で、ペイル社CEO単騎と面談中だった。
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