旅の夜 2 ◇
いつからから、抱擁を解いた空っぽの両手には淋しさと名残惜しさが染みついていた。次はいつ、とも確約の取れない関係だから、部屋に残るケンジの残り香が切なかった。
帰したくない、ずっと抱き締めていられたなら……と、零次はもう何度願ったかわからない。
けれど、今夜は違う。
制約も誰の目も気にせず、この隔離された密室でケンジを独占できるのだ。
語らいながら見つめあったり、飽くまで抱き締めあったり、いつもはできない恋人らしい触れあいが、今夜ならできる。
朝までのタイムリミットを心得た一方で、零次にはこの一夜が洋々と広がる時のようにも思えた。
「なんて豪勢な部屋なんだろう……スイートなんて初めて泊まるよ、僕」
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