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    C.K🌸

    宇宙兄弟の二次創作(腐向け)置き場です
    CPは日六とにっかぺメイン(新六もあるよ)
    イラスト/漫画/小説は、キャラとCPで
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    (下のタグを参照)
    連絡先 tablanket46★gmail.com
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    原作者様、関係各社様とは一切関係ありません。

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    24.10.7
    昨年書きかけで挫折したクリスマスのにっかぺSS、今年は絶対に完成させる…‼️❤️‍🔥
    長丁場になるかもですが、よろしくお願いします

    クリスマスにまつわる、くっついてるにっかぺSS「1話目」

    ##にっかぺSS

    Mellow loneliness 1     ◇

    零次は休日の午後を、カフェの併設された行きつけのブックストアでひとり過ごした。
    ふらりと立ち寄ってから退店までの四時間あまり、読書の合間にコーヒーと軽食を摂りながら、気に入って購入した小説をあっという間に読み終えた。日除けのために半分下ろされたシェードの向こうは、はや冬の夜が訪れている。
    独り身なので急いで帰宅する理由もなく、零次は物語の余韻を味わうようにしばらく席にとどまった。

    独身とはいえ、夏までは弟のカズヤと借家での二人暮らしを楽しんでいた。
    ファミリーサイズの大きな借家は、四年前、零次が出向先のヒューストンでカズヤをアメリカこちらへ招くためにわざわざ用意したものだ。
    カズヤが立派に自立した今、再び一人暮らしを始めた借家は以前よりも一段と広く感じられた。
    過去には一触即発の険悪な時期もあったが、もともと仲の良かった兄弟だ。零次にはカズヤのアメリカ暮らしをサポートすることは苦ではなく、世界そとへと飛び出した弟の目の前に広がる景色が、またキラキラと色を取り戻していく日々が嬉しかった。
    こちらの水が合うのか、カズヤの新生活は順調そうに過ぎている。もう零次の心配も援助もいらない。
    頻繁にメールのやり取りをするものの、アパートに移り住んだカズヤは滅多に借家に顔を見せなくなった。家族内で水くさいが、零次の色恋を気遣っているらしい。
    「兄ちゃんがモテるの昔から知ってるし、おれがいたら『おうちデート』できないだろ?兄ちゃんのじゃまになるのやだもん。さんざん世話になったし……」
    電話口で真面目にそう言われたとき、零次は返す言葉に詰まってしまった。
    そんなことおまえが気にすることじゃないよ、たまには帰って来いよ、としどろもどろで答えたけれど——。
    実は、ちゃっかり経験済みなのだ。
    遠慮するカズヤも知らぬ間に、零次はカズヤも交えての『親睦会』という名の『お家デート』を、これまでに何度か実行している。
    恋人への最初の打診は、カズヤをヒューストンへ呼び寄せてしばらく経ったころだった。
    「なあ、ケンさん。今度食事がてら、うちの弟に会ってもらえないかな……?」
    実は弟の憧れてやまない存在なのだと打ち明けたとき、同僚のケンジは驚いた様子で瞳を瞠り、「僕でよかったら」と爽やかな笑顔で頷いてくれた。
    宇宙を深く愛するカズヤにとって、ケンジは身近にいるとても大きな憬れであり、兄以外で初めて会う宇宙飛行士だった。
    少年の瞳をして夢中でケンジと語りあうカズヤを見て、零次は初めて、宇宙飛行士になってよかった……と、心から思った。そして、こんな機会を与えてくれたケンジに感謝した。
    それは、カズヤと零次と“同僚こいびと”と、三人で食卓を囲み歓談をするだけのデートとも呼べない和やかな集まり……。
    だけど零次には間違いなく、仕事以外でケンジと過ごす、かけがえのない大切な時間デートだった。


    ブックストアを出た零次は、数時間ぶりに年の瀬の迫る街を歩いた。
    街路樹やショーウィンドーからはとりどりの光があふれ、人々が往来する通りは昼のようにまぶしい。マフラーに顎をうずめ足早に往く零次は、この街を充たす喧騒や高揚感に背を向けているようでもあった。風を切ってどんどん進むせいで、外気にさらされた耳とおでこが痛いくらいに冷えていた。
    数あるイベントの中でも、とりわけクリスマスから新年にかけての祝祭ムードは正直こたえる。どうせケンジと一緒には過ごせない、いつも以上に独り寝の夜が寂しいだけ……そんならしくないネガティブが頭をもたげた。
    同期で仕事上の相棒バディでもあるケンジとは、誰にも言えない、道ならぬ親密な関係を結んでいる。
    告白するまでには丸二年の葛藤があり、零次はその間、まるで修行僧のようにケンジへの好意を胸に固く封じ込めてきた。
    あまつさえ同性でおまけに既婚者。こんな不道徳な恋は始まる前にすでに詰んで終わっている。たとえ運命の女神が頬笑んでも誰も幸せになりえないし、最悪、ケンジバディも失くしかねない。
    何度も、何度もこの恋を諦めようと思った。
    けれど、怒っても笑っても、隣で見るケンジの豊かな表情に胸が躍る。恋の病は重症だった。
    ともに苦渋の涙をのんだ時でさえ、ケンジの瞳はいつも凛々しく前を向き、零次に力強く頬笑みかけた。
    零次は穏やかでいて、確固不抜な彼の澄んだ眼差しが好きだった。
    月日が流れて、「レイ君」と彼の朗らかな声で初めて下の名前を呼ばれたとき、零次は押し殺した恋心が息を吹き返し、また鮮やかに色めき出したのを感じた。
    このまま騙し騙し、ケンジの魅力から逃げ続けるしかないと思っていたのに……。
    名前を呼ぶ優しい声音ひとつで、これほど鮮烈にケンジへの愛着を自覚する日が来るだなんて……。
    彼への告白を決意したのは、こんなささやかなきっかけが引き金。
    結局、抗えなかったのだ。いたずらな運命にも、ケンジへの想いの強さにも。
    一度フタが開いてしまえば、愛情も劣情も抑えることは不可能だった。手に負えない思いの丈は、零次の苦悶を見抜いたケンジの慈悲深さに受け止められた。
    念願の心と身体が通い合う関係になっても、祝祭の日にはいつも一人だ。
    帰る家のあるケンジを、自分の元へとどめておくことは難しい。かと言って、大切な記念日にケンジを家族と引き離すだなんて考えられない。
    改めて、零次の胸を矛盾が衝く。
     ああ、俺は。
    思いきり息を吸い込むと、冷えた鼻の奥がツキンと痛んだ。
     ほんとに好きになってはいけない人を、好きになってしまったんだな——。
    この恋は、初めから想像していた通り、甘くてにがくて、とても苦しい。
    行き場のない感情を逃がすように、ふうっと白い息を吐き出した空から、チラチラと小雪が舞い始めた。


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