ふたりごと 急に寒くなったお陰でたこ焼きパーティから
鍋パに変更になり、内心ホッとしていた。
蛸が嫌いなわけでは無いけれど食べるまで時間がかかるのがどうもせっかちな私には合わない。
鍋なら大体の食材が早めに食せるのが良い。
今夜もいつものメンバーで食べて飲んで夜は更けていく。
「みんな寝ちゃったね。アイス食べよ」
「お前まだ食うのかよ」
呆れた表情で杉元がため息混じりに呟いた。
「一口食べる?」
「食う」
「えっ?」
「なんだよ」
絶対要らないって言うと思うじゃん。
間接キスになっちゃうんですけど。
わかってるのかこの人は。
メンバーの中で杉元と私はあまり仲が良く無い。
気が合わないせいかもしれない。
いつも由竹が仲を取り持ってくれている。嫌いでは無いけれど直ぐに突っかかってくるし、私に対して冷たいのは見え見えだからきっと女と思っても無いのだろう。
まぁ、その方が気楽で良い。
はむっと銀のスプーンを咥えると餌付けしているみたいでなんだか笑みが溢れた。
「なんだよ」
「いやいや、餌あげてるみたいで可笑しい」
「そういうお前もアイスついてんぞ」
「え?どこ?」
待っていたカップを取り上げられすかさずテーブルに置いて、大きな身体が覆い被さった。
「とってあげよっか?」
「はぁ?てか、私まだ食べてないから着くはずないし」
右手にはまだ杉元が一口咥えただけのスプーンを握ったままだった。これはどういう状況?
ペロリと唇を舐められて一気に身体が熱くなった。
「…んっ!」
「なぁ、いいだろ?」
他のメンバーはすうすうとやわらかな寝息を立てて寝ている。時計の針は深夜二時を指していた。
「よ、酔っ払いぃ!」
「酔ってねぇよ」
また柔らかくて熱い唇が触れると、冷たい舌がぬるりと入ってきて気持ち良くて身震いをしてしまう。
「アイスの味がする。
あ、溶けちゃうから冷凍庫入れて来るからどいて」
「そうやって逃げるつもりだろ」
「バレた?」
「また買ってやるから大人しくしろよ」
「やだやだ。どうしたの急に?あ、アイス二個で」
「わかった、二個買ってやる」
着ているトレーナーやインナーをするすると脱ぎ捨てていき、テーブルの上に置いてあるリモコンで電気まで消されてしまた。
カーテンから差し込む外の灯りだけで部屋の中がぼんやりと暗くなる。杉元が私の服も脱がしていく。お互い酔っているから。また唇を重ね合わせると同時に、お互いの肌が重なり彼の体温が高くて心地良くてゆっくりと目を瞑った。
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気まずい。
いつものメンバーで鍋パだと聞いていたのに
彼が来るなんて聞いてなかった。
「アイス食べよっかな〜」
皆でわいわい食べて飲んで時計の針は深夜二時を指していた。みんな早々に酔っ払ってベッドや炬燵、ソファですやすや寝息を立てて寝てしまっている。起きているのは私と月島くんの二人だけ。
同じ部署で働く後輩だ。別に彼の性格がどうとかそう言う問題ではない。何を話して良いか分からないし、全部お見通しと言う感じの大人びた雰囲気も苦手だった。
「美味そうですね。俺も食べようかな」
「あ、いる?ごめんラスト一個なの」
自然とカップのアイスを掬って彼の目の前に差し出していた。いつも表情をあまり変えない堅物なイメージの彼が、目を丸くして少し頬を赤らめている。それでも口をあけてスプーンを咥えそのままじっとこちらを見つめられた。
カップを取られると少し溶けてきたアイスを掬い取り
次は私の方へと口元に運ばれた。口を開けて冷たいアイスを含むと程よい甘さと一緒に胸が熱くなってきていた。
「みんな寝ちゃいましたね。どうします?」
どうするも何も。さぁ寝ましょうか?とも行かないし。
帰るって言っても終電もないし。男と女が間接キスして見つめ合って何をするのか。
月島くんが立ち上がりアイスの蓋を閉めて冷凍庫に仕舞いに行ってしまった。気まずくて下を俯いているとキッチンから戻ってきた彼がストンと背後に腰を下ろした。
「すいません。もっと食べたかったですよねアイス」
「なんで仕舞っちゃったの?」
「こうやって先輩とひっつきたいからです」
背後から包み込むように抱きしめられて、自分の身体に太い腕が巻き付いている。
ぎゅっと背中に分厚い胸板が触れていて彼の鼓動がここまで伝わってくるようだ。
顎を優しく掴まれると後ろに向けられて唇を塞がれた。
まだお互い冷たくて甘い唇。
「っんん…子供扱いしないで」
「えっ?アイス取り上げた事ですか?」
「違う」
拗ねた顔をして彼に向き合うと、そのまま押し倒された。きっと月島くんは全てお見通しだ。
私が彼に触れて欲しかった事。彼も私とこうなるタイミングをずっと狙っていたら良いなんて、都合の良い妄想している間にも彼は服を全て脱ぎ去り、私の服も下着も器用に脱がしてしまった。