まるで向日葵のように1 春
「拓斗、何しているんだ?」
「向日葵の種、それを撒いているんだ。最後だしね」
宮崎のこどもみらい遊園地。
そこのステージ脇にある花壇に赤羽拓斗は種を撒いていた。
訪れるお客さんに楽しんでもらえたらと
「そっか。そうだよな」
「うん、今年が最後だから、少しでも賑やかになってほしいだろ」
拓斗の言葉に納得するものがあったのだろうか。
隣にいる蒼司も拓斗から種を分けてもらい土に埋めていく。
「そういえば今朝のテレビ見た?」
「いや」
蒼司の問いに首を横に振る。想定内だったのか、蒼司は先を続ける。
「グランツ交響楽団の特集が流れていたんだ」
「グランツ…… 東京の?」
テレビやネットでしか存在を見たことはないが聞いたことはある。東京には非常にレベルの高いオーケストラが存在するということを。
特にコンサートマスターの月城慧は個人でリサイタルも行うほど技量も備えており、また自分と同じ学年にも関わらず放つオーラがまったく違うことにも感服していた。
「春休みは遠方の演奏依頼も多くあるけど進学や進級でメンバーの入れ替わりがあって、そんな中でレベルを維持している…とかそんな内容だったよ」
蒼司が話す言葉に耳を傾けながら拓斗は思わず呟く。
「すごいよな…」
確かに自分たちもこの遊園地で演奏することはある。だけど、客がいない中演奏することもざらであるし、そもそも奏者としてのギャラをもらうことはなきい。
「うん…」
その言葉に頷く蒼司の様子が~なことに拓斗は気がつく。
「蒼司だって演奏はすごいだろ」
子どものときから近くで聴いていた音色。
中学のときは飛び抜けた実力で
「本番で発揮できなければ意味がないよ」
「そっか。ごめん…」
蒼司がいいよというのが隣から聞こえてくる。
すると、手の中にある種がなくなったことに気がつく。
「俺は楽しく演奏できればいいや。たぶん宮崎から出ることもないし」
ここに植えた向日葵の咲く場所が決まったように。
自分も宮崎で過ごすことが定められたのだろう。
自分にそう言い聞かせながら拓斗は仕事の持ち場に向かい出した。
2 夏
「横浜から来たんだ……」
朝日奈唯は横浜から来たと話す。
東京から近
「君ってまるで向日葵みたいだね」
「え?」
「ごめん。こんなこと急に言われるとびっくりするよね」
向日葵が綺麗だね
こっちの方が(自分=唯)綺麗だから
「来年はここで見られないんだ……」
3晩秋あるいは初冬
全国をまわって演奏をしながら新たなメンバーを探す。
朝日奈唯に初めて会ったとき彼女はそう話していたが、そのときはまさか自分がその一員になるとは思ってもいなかった。
だけど、まわりの
実際、スタオケのメンバーとなり~~で訪れた沖縄も演奏の機会に恵まれ、さらには新たな仲間と出会う
「今までがうまく行きすぎていたのかもしれないね……」
京都からの道中、バスの中でそう小さく呟いた唯の姿が悲しいほど印象的だった。
と唯が落ち込んでいる
「赤羽くんの」
「演奏しているときは明るくしようと振る舞っていたけど、それがダメだったのかな……」
「俺は好きだよ。君の音も、スタオケの音色も」
「ほら、前に俺がエゴサしたとき、横からスマホ覗き込んで落ち込んだときがあっただろう? そのときと同じ。あの人が求めているのが俺たちが奏でる音楽でなかった。ただそれだけだよ」
「君にこれをあげるよ」
「遊園地に咲いていた向日葵。種をつけたんだ」
「さ、行こう。また次の街で新しい出会いがあるかもしれないしな」
風は冷たかった。
だけど空に燦然と輝く太陽はまるで真夏の向日葵のようだった。