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    センリ°F

    メディア欄整理のためのプラス用格納庫。ぷらいべったー以外のサブのシリーズものを置いています。

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    一之倉聡に懐いている野球部の坊主の話
    ※見切り発車の男主友情夢
    ※非時系列順に置いてます
    ※夢主名:宗像 元(むなかた はじめ)

    ##イチノと野球部

    てんこ盛りの白飯をくれるイチノ男の図体はデカかった。朝食前に軽く何か摘んでも、寮の周りをひと回りしてくる頃には腹の虫が鳴っている。しかし朝食にてんこもりの飯を食べても、朝練でバットを振れば始業前には腹の虫が鳴っていた。持たされたおにぎりはここで消える。
    さらには3限が終わるまで、早弁を我慢できた試しがない。つまり、寮母から持たされたドカベンは昼食時にはすでに空である日がほとんどであった。
    もちろん昼間にも腹は空く。食べるものがないので購買か学食に行く。一番お得なコロッケ&カツパンか、日替わり定食を頼む。だが毎日そんな生活では、月末に小遣いの残金がゼロになってしまうのだ。
    「腹減った……」
    明日は今月最後の金曜日である。男が突っ伏しているのは学食の机で、男の目の前にはトレイも食器も置かれていない。デカい背中が虚しく丸まっていた。
    「お前はいい加減我慢を覚えろピョン」
    隣にやってきた深津が、大根おろしを山のように乗せたハンバーグを箸で切り分けながら言った。
    「今日こそは食わねーようにって思ったんだけど…2限、体育だったじゃん…」
    「そこそこいいシュートだったピョン」
    2限の体育で、そのガタイを活かしてほぼダンクみたいなシュートを決めまくっていた姿を思い出し、深津は溜め息を吐いた。野球部のくせに、上背は自分よりある。
    加減することを知らないらしい男が、2限で全てのカロリーを消費してしまったことは想像に難くない。汗の始末もそこそこに弁当を空っぽにしたせいで、今こうやって泣きを見ている。
    「おまえまた弁当食っちまったのか」
    「育ち盛りか?」
    深津の前に、松本と野辺が座った。二人とも白飯をてんこ盛りにしている。ネギ醤油の香りが食欲をそそった。
    「あああ〜ハヤシドリだ…!」
    「油淋鶏な。1文字も合ってねーから」
    今にもしくしくと音がしそうな泣き方を始めそうな男は、その擬音に似合わぬほどガタイがデカく、目付きが悪い。しおしおになっていても五月蝿いのはもはや才能だと思う。
    「ウケる、お前またメシたかりに来てんのかよ」
    「しかもバスケ部に」
    男の前に、日に焼けた坊主が座った。二人とも野球部だ。同じく白飯をてんこ盛りにしている。生姜と玉ねぎの香りが食欲をそそった。
    「生姜焼きだあああああ」
    「ほら、玉ねぎならやるよ」
    「ちっちぇ!」
    デカい声で駄々を捏ねるが、ないよりはマシと開いた口へ、生姜焼きの付け合わせの炒め玉ねぎが放り込まれた。無論、腹のタシにはならない。
    微妙な顔をした男へ向かって、松本と野辺が溜め息を吐いた。
    「…ほら、唐揚げ1個やるから」
    「オレのも」
    「松本ぉ!野辺ぇ!!サンキュー!!」
    漬物が乗っていた小皿へ、唐揚げが2個乗せられて男の目の前へ差し出された。神の恵みに、男の三白眼がうるりと揺らめいた。
    デカい背中を丸めた男が箸を取り、両手を合わせて唐揚げをひとつ口へ──放り込もうとしたときだ。
    「ムネ、待て」
    「!?」
    頭上からした声に、男のデカい図体がピタリと止まった。ご馳走を目の前にして、一瞬でもこいつが“我慢”できたことに、深津は「ピョン」と感嘆の声を漏らす。
    深津と反対側にやってきた一之倉も、白飯をてんこ盛りにしていた。山椒と唐辛子の香りが食欲をそそる。食べる前から二杯分のコメをよそっているのはどうかと思うが。
    しかし、一之倉はてんこ盛りの白飯茶碗のうちひとつを男の前に置いた。
    「あげる。唐揚げ2個でこれ食べんのは厳しそうだけど。塩でもかけたら?」
    目の前には唐揚げが二つと、てんこ盛りの白飯が一杯。男は昼メシ抜きを免れた。
    「さとしくんんんんんんんんっ!!」
    「麻婆豆腐も一口だけあげる」
    「ありがとおおおおおおお」
    申し訳程度に形を保っている豆腐をひとつよそわれて、男は一之倉に抱きついて喜んだ。無論、イチノは片手で軽くいなしている。身体がブレない。体幹が強い。
    「イチノ、それどうしたんだ?」
    「今日ご飯担当森さんだったから。どうせおかわりするんなら2杯ちょうだいって言ったらくれた」
    「森さん、イチノのファンだからな〜」
    「年上のお姉さんキラーピョン」
    「深津、言い方」
    森さんは学食のスタッフさんである。隣町の高校に通うバスケ部の娘がいるらしく、山王バスケ部にはめっぽう優しい。
    なるほどと相槌を打つ松本と野辺の隣で、野球部二人が肩をすくめる。
    「お前ら、あんまりそいつを甘やかすなよ」
    「甘やかすとつけあがるぞ。バカだから」
    身内である野球部よりバスケ部に甘やかされているらしい男は、チームメイトからの野次にも「ふふん」とむしろ胸を張るばかりだ。イチノが「バレないうちに早く食え」と小突くと、その大きな口に白米をもりもり詰め込み始める。
    「ん。聡くんがよそってくれたご飯、うめー!」
    「よそったのは森さんだよ」
    「あ、そっか。じゃあ今度よそって」
    2個の唐揚げを瞬時に食べ終え、食堂のテーブル備え付けの塩をかけてコメを食らっている男は、息を吹き返したように笑った。その隣で、イチノもふっと微笑んでいる。
    松本や野辺が(たとえ自業自得であれ)困っている者に優しいのはよくわかる。バスケ部にはもう少し厳しいのかもしれないが、深津の目から見てもコイツには多少甘い。
    それよりもだ。どちらかといえば達観ポジションにいる一之倉に、こうも世話を焼かせるというのは才能かもしれない。それも“お願い”する前に助け舟を出してもらえるなんて、普段ビシバシ扱かれている沢北が見たらなんて言うか。
    そんなことを考えながらハンバーグを口に運んでいると、やけに隣からの視線がうるさいことに気がついた。
    見れば、あと一口、白米を残した男がじーっとこちらを見つめている。
    「…深津」
    「いじきたねー犬ピョン」
    ぎゃんと大型犬が吠え始めて五月蝿くなる前に、深津は最後の一口を平らげて立ち上がるのだった。
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