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    センリ°F

    メディア欄整理のためのプラス用格納庫。ぷらいべったー以外のサブのシリーズものを置いています。

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    一之倉聡に懐いている野球部の坊主の話
    ※見切り発車の男主友情夢
    ※非時系列順に置いてます
    ※夢主名:宗像 元(むなかた はじめ)

    ##イチノと野球部

    てるてる坊主作ってくれるイチノ廊下の窓の外が白く光って、一之倉は思わずノートから顔を上げた。この授業が終わればようやく部活なのだが、今日は外周はなさそうだ。視線を黒板に戻しても、稲光が視界の隅にチラついていた。
    思った以上に雨は激しく降っていた。掃除の時間も窓を開けることができないくらいには。
    廊下側の窓を拭いていると、教室の外で明らかに掃除の邪魔になって突っ立っている男がいた。黄色いモップを持ったまま、激しく窓を叩く雨粒を眺めているのは、同じクラスの野球部の坊主であった。
    一之倉は教室を出て、その隣へ並んだ。頭ひとつぶん違う背丈だ。しかし、男の背中はなんだか小さく見えた。
    「──野球部ピロティかな」
    グラウンドのダイヤモンドは見る影もない。いくら水捌けがよいと言っても、超低気圧による洪水レベルの夕立の後すぐには、野球はできないだろう。
    男はウンと生返事のあとに言った。
    「バスケ部だってラン体育館じゃん」
    平生の半分もない声量のせいで、男の心の内が手に取るようにわかって、一之倉は少しだけ同情した。
    男は部活を──野球を愛している。一之倉がバスケを愛しているように。一分一秒すらも惜しい青春だ。雨に水を差されては堪らない。
    「あと30分くらいで止めば、アップしてるうちに乾くかもしれないぞ」
    いつも元気で五月蝿いこの男が、わかりやすくしょげている。だから普段あんまりかけないような言葉をかけてみた。ついでに腕を肩で小突いてやった。陰気もポンと軽く吹き飛んでしまえばいいと思った。
    しかし、男がまた生返事をしたので、一之倉はさすがに顔を見上げてしまった。三日月みたいに鋭い三白眼が雨雲を睨みつけていたので、目は合わない。
    「…ムネ?」
    大人しくしていれば、ただの厳つい日に焼けた坊主だ。たぶん女子にもモテる、知ったこっちゃないが。
    しかし、黙っているこの男が、物思いに耽っているわけではないのがいじらしくて、おかしくて、一之倉はそれきり口をつぐんだ。わかりやすいことは時として、ひどく愛おしさを募らせた。
    「ムネ」
    「っい、っだ…!」
    このまま、男が沈黙に呑まれてしまうのが癪で、一之倉は形のいい耳を思い切り引っ張った。悲痛な声とともに、涙目の三白眼がようやくこちらを見る。胸の奥がしんとした。
    「…雨降って泣いてる野球部なんてお前くらいだよ」
    「泣かせたのは聡くんだろ」
    非難も口にせず、かわりに泣き言を漏らす唇が尖る。赤いそれは、しろい雨によく映えていた。
    思わず伸ばしそうになった指を曇りガラスに伸ばして、一之倉は低い声で言った。
    「…でもオレ、お前のそういうとこ嫌いじゃないから」
    マルに三角をくっつけて描く。頭のてっぺんに楕円の紐を追加すると、何だかわかった男が「あ!」とようやくデカい声を上げた。
    「聡くんボーズだ」
    「お前も坊主だろ」
    「あ、俺ボーズも描く!」
    のっぺらぼうに顔を描き加えた男は、その隣にひと回り大きなてるてる坊主を描いた。続けて目を描こうとする指を掴んで止める。かわりにそこへ指を伸ばした一之倉は、ギロリとした怪獣みたいな目を描いた。
    「俺じゃん!」
    「雷様もヘソ隠して逃げだすぞ」
    「わはは」
    わかりやすいことは時として、ひどく愛おしさを募らせる。男の性分をよく知っているがゆえに、一之倉はホッとしたように息を吐いた。あとは晴れるのを待つのみだ。
    「お前ら掃除サボって何やってるピョン」
    二人で廊下に突っ立っていると、さすがに深津が近寄ってきて苦言を呈してくる。しかし野球部は胸を張って答えた。モップはただのお飾りだ。
    「深津。見ろ。聡くんボーズと俺ボーズだ」
    「……なぜ誇らしげなのか理解不能ピョン」
    「あ、ムネ!晴れてきたぞ!」
    「マジ!?…マジだ!サンキュー聡くん!おい深津、バスケ部外周な!」
    「お前に何の権限があるピョン」
    窓に並んだふたつのてるてる坊主ごしに、きらきらと金の光が差し始めたので、一之倉はたまらなくなって顔をくしゃくしゃにして笑った。
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