五七ワンライ「縛」「アナタ弱いんですから。別のにしたらいかがです?」
腕組みをした七海が、とす、とやわらかく肩を傾けおしつけてきた。そうは言うが、下戸であることを重々知っていてなお、ブランデーの香りに包まれたケーキの色やかたちは、魅力的に映る。
ショーケースのなかはまるで宝箱だった。どれも一度食べたことがあるぶん、味はお墨付き。では今日はどれを土産に、家へ連れて帰ろうか。これから家で、七海の淹れる紅茶を主軸に午後のティータイムと洒落こむ算段で。どうせなら、お墨付きの中でもとびきりを選びたくていたのに。目移りしてばかりで困る。
五条とは反対に、七海はオーソドックスなチョコレートケーキを選んだ後、こちらがケースを見渡せるようにと、一歩さがって見守ってくれていた。のだが。五条がいざ、じっと見つめた先、ブランデーをふんだんに含んだケーキにだけは、ちょっと、と咎めを入れた。
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