マリアージュ噛み合わず「なりませんか」
見せられた素朴な指輪に返答を一瞬躊躇ったのは紛れもない失敗だった。違うんだよ、と今更取り繕ったところで不安げな顔を先程までとそっくり同じに戻せはしないだろう。
しかしそうだとしてこのまま何も言わず食事を終わらせて良いのか。断じて良くない。彼が、あの数年前には自分の想いの断片さえ正しく受け取れなかった元鈍感少年が、おそらく勇気を振り絞り告げた言葉だ。昔よりずっとこちらへ話し掛けるよう になった唇が震えながら発した大切な一言だ。決して悔やませてはならない。己の培ってきた全てを以て彼が後々今日の事を笑いながら話せるように最大限努力をしなくては。たとえ場の雰囲気にそぐわなくとも。用意が全て無駄になったとしても。
ああだが。どうしようかな、これ。
掌の中隠し持つ箱を弄びながらなるべく柔和な笑顔を作る。いつかこんなすれ違いさえ笑い話にしてくれれば良いのだが。