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    フク吉

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    フク吉

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    創作漫画【シンギュラーズ・パーティー-SXP-】の補完小説です。
    漫画1ページ目の配属初日シーンを補完しております。
    ▼漫画はこちら
    https://poipiku.com/336167/9583302.html

    #一次創作小説
    aCreativeFiction
    #補完小説
    #SXP

    シンギュラーズ・パーティー-SXP- 補完小説 「全員、こっちに注目!」
     今日も事件捜査で慌ただしい刑事課の室内に、刑事課課長のよく通る声が響いた。
     朝早くから何事か、と手の空いている者たちが振り向くと、普段はどこか飄々として、課長という立場にしては少し頼りない彼が、珍しくキリッ、と威厳のある雰囲気を醸し出しながら部屋全体を見渡せる場所に佇んでいた。その隣には見慣れぬ妙齢の女性が一人並ぶように立っている。
     まだあどけなさが残る可愛らしい顔立ちは緊張のせいか硬く強ばっており、健康的でしなやかな身体もまるで石像のようにカチコチと固くなっているのが見てわかった。
     新入りさながらの初々しい姿を見ることで、ここ最近の度重なる事件によって多忙を極めていた刑事課一同は、世間ではもう新年度の季節だという事を今更ながらに思い出した。
     窓際にいた者は、そのまま窓の外から見える隣の公園の敷地に咲いた満開の桜を眺めているが、その目つきはどことなくもの悲しい。
     「はいはい。朝から哀愁漂わせるのは終わりにしようね」
     その様子に見兼ねたのか、先程までの威厳ある雰囲気を打ち消し、普段の調子に戻った課長はパンパン、と手を叩いていま1度、自身のいる場に部下たちの意識を向け直させる。
     「今日からサポーターとして『特二』に配属する事になった、新米警察官のラン・キサラギ巡査。今朝赴任してきたばかりで職務上、不慣れな場面も多いだろうから、気にかけてあげるように」
     「よろしくお願いします!」
     緊張で少しだけうわずってしまったが、明るく元気な声で挨拶をすると、ランは深々と頭を下げた。




     
     ランが配属された『特二』とは、この場にいる全員が警察官として所属する、この所轄署――拝島署の屋上に拠点を構えている部署の通称だ。
     正式名称は『特殊刑事二課』。
     名前にある通り警察の中でも特殊な部署にあたるため、署内でも普段『資料課』として認識されている。そのため、本来の部署として認知しているのは捜査連携を担っている刑事課内に務める関係者だけなのだ。
     ちなみにランが今その身に着ているのは、一般的に支給される警察官の制服ではなく、上は腰辺りまでの紺色のジャケットと赤のタートルネック。そして柔軟性の高そうな白のスキニージーンズ、という署内の人間ならば誰もが見慣れた『特二』特有の制服であったため、課長の紹介を聞かずとも皆が彼女の所属先を理解するのは簡単であった。
     「特に『タクト班』は捜査連携もしているんだから、色々教えてあげるんだよ。ただでさえ『特二』は今、潜入捜査中で人手が足りてないからね」
    「了解です」
     そんな会話のやり取りに耳を傾けながら、ランはそのままチラリと課長の視線の先を目で追うと、部屋の右端に列を並べた机の近くにいる三人と男性と一人の女性――『タクト班』と呼ばれていたメンバーを捉えることができた。
     各々の手には資料管理用のタブレットを持っており、側にあるホワイトボード型のマルチモニターにも事件資料らしきデータも映し出されている。
     内容は恐らく、先立って『特二』に挨拶へ行った時に上司から聞いた因子薬物のバイヤーを狙った連続殺人事件のものだろう。
     姿勢をそちらへと向き直し、ランは改めて班のメンバーに挨拶をしようと口を開きかけた時、視線の先で一番手前にいた男性の表情を見て、思わず口を噤んでしまう。
     (――なんだか、睨まれてるような気がする?いや、でも単に目付きが悪い人なだけかもしれないし……)
     先入観は良くないと、ランは改めてその表情を見てみるが、まるでテレビドラマに出てきそうな整ったその顔立ちの眉間には、やはり深く皺を刻んだままこちらを凝視している。
     凶悪な犯罪者と合間見える事も多い刑事課の警察官としては、琥珀色の瞳が印象的なその鋭いつり目はバランスの取れた体躯と合わさってまさに理想的だとは思うが、一緒に働く側としては、ただただ怖い印象しか与えられない。
     
     「――タクト、初対面の女の子にそんな表情はないんじゃない?今年も同年代が来て緊張しちゃうのは分かるけど、顔が怖いよ?」
     隣にいてランと同じくその表情を見ていたらしい課長は、苦笑いしながらその顔のまま固まっている彼に注意すると、タクトと呼ばれた男性は気まずそうに眉を垂れ下げてしまう。
     その姿は今までの怖い雰囲気とは打って変わって、年相応より幼い感じが垣間見えて、ランは思わず目を丸くする。
    「も――、またですか?ケーブ。人付き合いが苦手なのは知ってますけど、愛想良く笑えとはいかなくても、もう少し表情筋は緩ませましょうよ」
    「そうですよ。ただでさえケーブの睨みは凄みが強いんですから。ほら、キサラギ巡査も恐くて固まっちゃってますよ?」
     そんなタクトの情態を見かねたのか、彼の真後ろに立っていた2人――『タクト班』ならば恐らく彼の部下なのだろう男性達は、タクトを挟むように両脇に並ぶと、先程の表情をまるで見ていたかのような顔を模範しながらタクトをたしなめる。
     3人のその様子は上司と部下というよりは、まるで兄弟のような雰囲気に見える。
    (――今、あだ名のように気軽な感じで言ってたけど『ケーブ』て、もしかしなくても『警部』?!)
     同年代と言われたタクトのまさかの階級にランが驚いて凝視していると、その姿を先程言われたように怖がっていると思ったのか、タクトはさらに気まずさそうにサッ、とそのまま横に目線を逸らしてしまった。
    「ふふっ――あの通り慣れるまでちょっと無愛想だけど、階級に見合う以上に仕事はめちゃくちゃできるから。『特二』の方も、前任のサポーターから不在の間は代理をやっていたからね」
    「……わかりました」
     なぜかクツクツ、と笑いながらランの隣で傍観していた課長も、すかさずタクトのフォローを口にする。仕事に関しては問題がなさそうなので、ランは返事を返した胸の内でひそかにホッする。
    (なんというか……本当に人付き合いや愛想が苦手な人なだけなのかな。代理もしていたみたいだし、これから仕事の話がスムーズにできるくらいには慣れてもらえるといいな)
     職場に似合わずアットホームな雰囲気の人達のおかげもあってか、徐々に緊張がほぐれてきていたランも、その時はタクトとの距離感についてそれ程深く考えず、気楽にとらえていた。

     ――まさか、挙動不審なタクトによる故意のすれ違いがその日から1週間も続くとは、ランだけでなくこの場にいる誰しもが思いもよらなかったのだが。

    To be continued in comic
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