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    raku_713

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    raku_713

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    フォル学軸のミスオエ。不眠症ミスラのおはなし。

    オレンジの音色 放課後、ミスラには、よく一人で向かう場所があった。校舎の奥の方にある空き教室。今は使われていない部屋だ。
     その場所に行くのは、ある歌声を聞くためである。
     その声を聞くと、毛羽立っているような内面が、すうっと落ち着く気がした。さらに、その歌声はミスラの人知れない悩みを解決する効果も持っていた。
     ミスラは、超がつくほどの不眠症である。弱みを握られるようで誰にも話してこなかったが、日々溜まっていく睡眠不足は、彼の調子を狂わせていた。
     毎晩ベッドに入っては、天井を見ながら朝を迎える日も少なくはない。寝つきがよくなるハーブティーを飲んでみたり、三日月の形をした安眠抱き枕を使ってみたりしたが、まるで意味がない。それどころか、不眠によるストレスで不眠が加速するばかりだった。
     そんなある日、校舎の奥の空き教室で、歌声を聞いた。その瞬間、重い身体が、ふわっと軽くなる心地がした。ここに留まりたい、そんな気持ちになり、教室の扉にもたれかかるように腰を下ろした。目を瞑ると、さらにすうっと声が身体に染み渡る気がした。少しずつ身体の力が抜けていき、気がつけば、そのまま眠ってしまった。
     目を覚ますと、歌声は止んでおり、教室の中にも人影はなかった。
    翌日、再び空き教室へと足を運ぶ。この日も、部屋の中から、繊細で美しい歌声が聞こえてきた。
     声の主を知りたくて、教室に入ろうと扉に手をかけてみたが、鍵がかかっているようで開かない。扉の外から声をかけてみるも、歌声が止むだけで、返事はなかった。
     気になりはするが、致し方ない。ミスラは静かに教室の前に座ると、目を閉じて神経を研ぎ澄ませた。しばらくすると、止んでいた歌声が再び響きはじめる。包まれるような感覚を覚えながら、ミスラはその日も教室の前で安らかな時間を過ごした。
     それからというもの、ミスラは放課後、ことあるごとに、その空き教室に通うようになった。扉にはいつも鍵がかかっており、中の様子を知ることは叶わないままだったが、ぐっすりと眠れるこの空間、この時間は、ミスラにとって珍しく温かいものだった。

     ある放課後、いつものように、ミスラは校舎の奥へ向かっていた。もちろん、目的は空き教室である。
     教室の前に辿り着くと、透き通った綺麗な歌声が、軽やかに聞こえてきた。扉の前で目を瞑ると、頭のモヤモヤが風で流されるように消えていく。
     今日もここでひと眠りしよう、そう思って瞼を持ち上げ、いつもの場所に腰を下ろそうとすると、教室の扉がわずかに隙間をつくっていることに気づいた。
    「……」
     好奇心に流されるまま扉を開く。
     歌声は、驚いたようにピタリと止んだ。と同時に、目の前に現れた華奢な線がビクリと揺れる。
     歌声の主を、窓から差し込む夕日が照らす。銀糸のような髪は、その橙色に包まれ、温かな光を放っていた。
    「オーエン……あなただったんですか……」
     ミスラが、その姿を見て目を見開く。
    「はぁ、最悪……」
    「鍵、忘れたんですか?」
    「……」
     左右で色の違う瞳が、ミスラをじとりと睨む。
    「最悪だよ。お前が勝手に僕の歌を聞いて、勝手に間抜け面で寝てるの、滑稽でよかったのに」
    「何だ、知ってたんですね」
    「そんなところで堂々と寝てたら、嫌でもわかる。暗くなった頃に、お前のだらしのない顔を見てから帰るのが、馬鹿みたいで可笑しかった」
    オーエンが、挑発的な笑みをつくった。
    「ねえ、ミスラ。僕の歌、気に入ったんだ」
    「はい」
     素直な返事に、オーエンはきょとんとした顔で、ぱちぱちと瞬きをした。
    「歌ってるのがあなたで、なんだか納得しました。もっと聞かせてください」
    「……嫌だよ。どうして」
    「あなたの歌、安心するんで」
     隈のできた重たい目で、オーエンをじっと見つめる。
    「隣にいさせてください」
     ミスラの言葉に、オーエンがふいと視線を逸らす。小さな声で「勝手にすれば」とつぶやくと、教室の端にある古びたソファーへと逃げるように腰かけた。そして、鮮やかな夕日に照らされながら、再び音を口ずさむ。
     ミスラが追いかけるようにソファーへと腰かける。オーエンの表情を覗きこむと、ふいと顔を背けられたが、歌が止むことはなかった。
     澄んだ歌声は、いつもより身体と心に染み渡るような心地がした。だんだんと瞼が重くなり、指先があたたかくなる。オーエンの肩にもたれるように寄りかかると、隣からため息が聞こえた。そしてまた、その口は音色を奏でる。
     意識はふわり、ふわりと宙に浮き、そのまま歌声に乗せられたかのように、心地よく手から離れていった。
     
     目を覚ますと、すっかり日が落ちてしまっていた。随分と長いこと眠っていたようだ。しかし、まだ隣に温もりがあることに気づく。
    「……まだいたんですか」
    「お前が重くて動けなかったんだよ。早くどいて」
     ミスラは、その言葉を無視し、オーエンの首元にすり寄るようにもう一度体重を預けた。
    「明日も鍵、かけないでくださいね」
    「……嫌」
     彼の表情は見えないが、その息遣いに甘さを感じて、ミスラは目を細めて笑った。

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