神主のやーつ どうして明日にしろと言わなかったのだろうと私は今でも後悔している。
隣町、と言っても山を隔てた向こう側に行くには車で何十分も行かねばならない。山に囲まれたこの辺鄙な村には小さな商店がひとつあるが、どうしたって必要なものすべてをそこで賄えるわけではない。だから、どうしても必要で、と買い出しに出かける妻の車を私は何の疑問もなく見送った。後部座席の窓から見える息子のまだ小さな頭がいつまでもこの目に焼き付いている。せめて祭事の準備に忙しいという理由など捨て置いて私も行けば良かったのだ。
そうしたら、先日の大雨で土砂崩れを起こした山道で、私も妻子と共に死ねたものを。
社務所に転がり込んできた新任の駐在が息を切らせて「奥さんと息子さんが」と叫ぶのを、どこか他人事のように感じていた。それでも手足は勝手に動いて、私は飛び出していた。ふわふわと雲を掻き分けるように現実味のない中、必死に足を動かして急ぐ私を件の駐在が引き留めた。まるで悪い夢のようだったのに、掴まれた手首が痛くて、これが現実なのだと否が応でも知らされる。
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