〈玄関先の植木鉢から生えてきた右腕が、流暢な外国語で話している。〉〈玄関先の植木鉢から生えてきた右腕が、流暢な外国語で話している。〉
ポットに植えた指から腕が生えたので、狭いと大層居心地悪かろうと思い、とりあえず玄関先の植木鉢に植え替えた。水をかけてやると喜んで、ぽきぽき鳴る手首をゆるやかに動かしていたが、次の日には息をするようにゆっくりと手のひらが閉じたり開いたりして、その次の日には堂々とピースサインが咲いていた。
「アーアー、ハーイ、エー、ヤー、ハロー、グーテンモルゲン、ボンジュール」
植え替えから一週間が経った今日、気持ちのいい朝日に目を細めてカーテンを開けてみたら、サムズアップした手首が何やら言葉を喋っていたのだ。生憎日本語しか分からないので何を言っているのかわからないが、流暢な外国語ということだけはわかった。
玄関先に出て、指の骨を撫でるように爪で引っ掻いてみたところ、驚いたように人差し指と中指をうにょうにょ動かしたので、面白くて続けることにした。つんつんつつくとその分だけオーバーなリアクションが返ってくるし、言葉がどんどん早口になっていく。実家にいた犬になんだか似ている気がする。
「えーと、なんで外国語なの」
聞いてみたら、悩んでいるのかうにょうにょ動かして、地面を指さしたあとに人差し指と中指でバッテン印を作った。なるほどなるほど、つまり、日本産じゃないらしい。よく見たら指と手の甲に薄らと生えている毛は金色だし、なんだか肌の色もやけに白い。爪の形も、自分と比べてみたら少し角張っているけれど、まあこれは産地には関係ないだろう。
「いい天気だね、お日様気持ちいい?」
「ウ!」
これは俺でもわかった。気持ちいいらしい。さんさんと降り注ぐ太陽の光をじゅうぶんに浴びて、嬉しそうににピースサインをしている。あー、よかったね、とまた指でくすぐるようにつっつけば、手首をぐるんぐるんと回して対抗してきた。顔のついた人間よりもやけに表情豊かだ。何を言っているのかは分からないけど、かなり簡単にコミュニケーションがとれる。外国産の腕だからちょっとフレンドリーなのかな、なんて思いながら、後でスーパーで硬水を買ってきてやろうと財布の在処を思い出した。