愛でないなら!① 金曜日の夜、地方都市の辺縁部にある飲み屋街は一週間の仕事を成し終えたサラリーマンでそこそこに混みあっていた。キラウㇱは純正の務め人ではないから、三十代も半ばと言えど、華の金曜日と言われるものに縁が出来たのは2年と少し前からだ。
そもそも何時、と待ち合わせしているわけではないから遅れるも何もないのだが、先方が今繁忙期ではないようだから少し早めに出ればよかった、などど思いつつ、解放感で浮足立つ人の波をやや急ぎ気味に渡って、すっかり毎週のならいとなった路地にたどり着き、昼間はカフェとして営業しているといわれると成程納得できる店構えのバーの重たい扉を開ける。立地の面もあるだろうが、価格帯がそれなりなので人は疎らだ。カウンター席の一番奥に見慣れたツートンカラーの頭が見える。
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