ドリソス THE ORIGIN 第8話 翌日、パーターは昨日行ったメドーマン宅に再び行くことになった。
実はあのダリアが、メドーマンの彼女の教育係をしているらしい。
昨日のスマホでのメッセージアプリにて・・・
ダリア『昨日メドーマンって人と会わなかった?その人の彼女から話を聞いたんだけど』
パーター『うん。会ったけど…それがどうかしたのか?」
ダリア『私、彼の彼女さんの教育係っていうのをやってるの。だからメドーマンさんのことも知ってるよ。
彼女さんは脳の病気があって、定期的にトレーニングをさせないといけないんだって。
それで私の父さんがメドーさんと友達だから推薦してくれて、私が教育係になったの』
パーター『お前もメドーマンさんと知り合いだったのかよ!!!』
そんな訳で話は進み、結果今日パーターはダリアと一緒にメドーマン宅へ行くことにした。
北部の東部寄りの高台の住宅街、メドーマンの家はそこにある。
~メドーマンの家~
茶髪の女性「ススム、ピンポン鳴ってるよ~?」
メドーマン「ああ分かってる。すぐ行くよ」
メドーマンはインターホンの画面を覗く。
パーターとダリアが見えた。
メドーマン「あーお前たちか。今開けるから」
パーターとダリアは家の中に入れてもらった。
メドーマン「ここまでお疲れさん。これ飲んでて。良いヤツ持って来るから」
メドーマンはそう言うと、冷えたお茶をテーブルに置いた。
パーター「ありがとうございます…って良いヤツって何すか?」
メドーマン「まあ待ってなって」
1分も経たないうちに、メドーマンはとある箱を持って来た。
メドーマン「『シュロムタクティクス』」
ダリア「いつもよくやるカードゲームじゃないですか」
メドーマン「パーター、これのことは知ってるか?」
パーター「オレ…ゲームはあまりやらないから知らないんですよ。代わりに音楽ばっかりやってますけど」
メドーマン「歴代のソラレシュロムをカードにしたゲームだよ。やり方教えるから、一緒にやろうぜ。ダリアちゃんも」
ダリア「えっ私も?イーレさんが寂しそうにしてるから、彼女と遊ぼうと思ったんですけど」
茶髪の女性「ダリア~一緒に遊ぼ!」
ダリア「何して遊ぶ~?」
メドーマン「ダリアちゃんはイーレと遊ぶみたいだから俺たちでやってようぜ」
~1時間後~
メドーマン「よっっしゃ!!!!」
パーター「うわ~負けちゃったよ」
メドーマン「最初は手加減したんだよ。でもこの俺に本気の50%出させるとはな。お前このゲームの素質あるんじゃねーの?」
パーター「ええ…あれでも手加減モードだったんすか…?しかも今の対戦でも本気の50%って…」
メドーマン「とにかく、久しぶりに良い対戦出来たよ。またやろーな」
パーター「悔しいんで、いつでも誘ってください!!」
ダリア「彼、あそこまで悔しがるのは中々無いよ。学校の魔法実技の授業でもあそこまで悔しがらないのに。
あのやる気を勉強に出せないのかな~」
と、ダリアが遠い目で彼らを見ながらイーレに話す。
すると、再びインターホンが鳴り出した。
メドーマン「おっ?誰だ?」
一足先にイーレがインターホンへ駆けてゆき、画面を覗いている。
イーレ「…ススム、この人たち、誰??」
メドー「警察…?」
パーター「なんで警察がここに来るんだ?」
ダリア「物騒だなあ…」
メドーマン「はい、何の用っすか?」
警察『ここにメドーマンさんはいらっしゃいますか?話を聞きたいんですけど』
メドーマン『……』
パーター「話って…」
パーター達3人はメドーマンを見つめることしか出来なかった。
警察「お邪魔します」
メドーマン「ここにどうぞ。話って何すか?
…まあ、だいたい検討は付いてるけど」
パーター達は別室でドアに耳をくっつけながら静かにメドーマンと警察の会話を聞いている。
警察「失礼します」
警察が腰を降ろすと、
「あなたを殺したとされる被告人の1人が拘置所内で自殺しました」
メドーマン「……」
警察「ようやく事件の証拠も裁判で語ってくれたときにこんなやり方で…残念ですが。
メドーマンさんには大変話しにくいことでしたが、あなたが被害者であった以上は伝えないといけないので」
メドーマン「分かりました。わざわざ来てもらってありがとうございます」
……
これ以外にも警察はメドーマンの過去の話もしながら今回の件について話した。
その後警察はメドーマン宅をあとにした。
3人のいる別室。
パーターは話が一瞬理解できなかったが、その後すぐに察した。
パーター「ダリア」
ダリア「何?」
パーター「あの人は…近為人だったんだな」
ダリア「ここにいるイーレさんもそうだよ」
ダリア「さっき警察が話していた通り、メドーさんとイーレさんはドライブ中に煽り運転を受けてその事故で亡くなったんだ。
その後違法研究所に遺体を持ち去られて、その研究所で近為人に生まれ変わったんだって」
ダリア「イーレさんはその事故が原因で脳損傷を患ったし、メドーさんも右の肩と肘上の腕、胸部を失ったんだ」
ダリア「私の父さんとメドーさんはそこで出会ったんだよ」
パーター「イーレさんは?」
ダリア「イーレさんは女性だったから別区画で収容されてたみたい」
イーレ「ひとりで…寂しかったよ」
パーター「さっきイーレさん、メドーさんのこと『ススム』って言ってなかったか?あれは?」
ダリア「メドーさんの本名だよ。というか人間時代の名前。『奥道 進(おくみち すすむ)』だよ」
パーター「イーレさんは?」
イーレ「『ソムト=イーレ』。ほんとうの名前だよ」
ダリア「あまり近為人では聞かない話だけど、生前もこの名前だったらしいよ」
さっきからイーレはダリアの腕にしがみついている。
パーター「イーレさんってシャイなのか?」
ダリア「慣れたらすぐに懐くよ。私と初めて会った頃もこんな感じでメドーさんにしがみついてたし」
そんなこんな話していると、
メドーマン「もういいぞ~」
声がドアの向こうから彼の声が聞こえた。
パーター「メドーさん…」
パーターがゆっくりとドアを開けた。
メドーマン「隠す気無かったから別に良いんだよ」
メドーマン「…俺は人間時代、プロゲーマーをやってたんだ。ゲームのアスリートってとこだな」
「ドリル中央ゲームって会社のプロゲーマー事務所に入って、それなりにやらせて貰ってたけど、
その事務所、昔からプロゲーマー大会で『やらせ』をやってたらしく、その証拠を俺が見つけたんだ」
「そういうのはダメだと思ったから、俺は直接プロゲーマーの連盟本部に行って告発したんだよ」
「連盟は頑張ってこの事実を広めてくれたが、ドリル中央ゲームに所属していたプロゲーマーにも批判の矢が向けられてしまって、その後の生活が脅かされた人もいたらしい。
自殺した人間もいた」
「すると中央ゲームは逆上して、全ての問題の原因を俺に仕立て上げ、当時大会で優勝続きだった俺の指図の下で最近の大会はやらせを行っているんじゃないかってことに
されたんだよ」
「中央ゲームは50年以上も続く、カードゲームや食玩から始まったゲーム会社だ。
国の信頼もそれなりに厚い。
ただでさえ現状この国ではプロゲーマーの目は厳しい。会社は長年培った財力と信用を利用してプロゲーマー達を捨てたってことだ」
「中央ゲームは、俺たちを有利にさせることでやらせをしていた訳では無い。
俺たちだってプロだ。違和感があったら肌感覚で分かる。
相手側、つまり『中央ゲーム以外に所属するゲーマーを不利』にしてたんだよ」
「そして、相手側の事務所は、中央ゲームに金をちらつかせられたもんだから、
それに乗っかって金と引き換えに自分たちんとこのゲーマーに負けるよう指示してた」
「俺はやらせの根源とみなされ、連盟からも見捨てられた。やらせの確実な証拠を持っていたのは俺だけだった。
俺がプロゲーマーを辞めた後も執拗に中央ゲームは俺のことを監視していた」
「無職だった俺は…残りの金をはたいて勝負に出た。
弁護士に依頼をしたんだ」
「偀 麗蘭(はな れいらん)。ドリル島では割と有名な偀法律事務所の所長兼弁護士だ。
彼女に裁判も念頭においてもらい、中央ゲームの疑惑を確信に変えて貰おうと思った」
…まだ表では行動していなかったが、警察がようやく中央ゲームの裏の顔を暴こうと動き始めた」
「…でも、世間に中央ゲームの悪事が知れ渡る前に、ゲーマー時代俺とライバル関係にあった『アルテロイ・アントニウス』というゲーマーの所属していた『エースト』っていう事務所が、アルテロイの野郎の言葉を呑みやがったんだよ。
何かと言うと、中央ゲームの協力の下、中央ゲームの社員数人が俺たちの車を煽って
事故を起こしたい車線に誘導し、罪も無いエーストの事務所の平社員も超能力で操って
車の運転中無理やり服毒させて玉突き事故を起こさせたんだ。
正気の沙汰じゃねー」
「…もちろん俺たちはその事故に巻き込まれてこのザマって訳だけど、煽ってきやがった奴らは上手いこと自分達が煽ってないように見せていたから、
当時は服毒したエースト社員だけに責任が移った
…もう4年も前の話になるのか。時が経つのは早えーな」
「中央ゲームがやらせ疑惑でアタフタするのは俺たちが死んで近為人として蘇った1年も後の話だ。
藍合(あいごう)研究所っていう犯罪集団が中央ゲームとエーストとグルだったことが分かったのもその時だよ
お前ら中学生なら知ってると思うけど、今や中央ゲームとエーストは無くなってしまった」
「…まあ、俺の話はこんなもんだ。…長くて退屈してねーか?」
パーター「イーレさんは寝ちゃってますよ」
イーレは、ダリアにもたれかかって眠りこけていた。
ダリア「私の父さんは研究所のときのことを話したがらないんです。すぐに『お前には関係無いことや』って言うし…」
メドーマン「フェッさん…君の親父さんは研究所で人を――」
ピンポーン
またインターホンが鳴り出した。
メドーマン「オイオイ今度は何だよ…」
「!?」
さっきの警官だ。全身が血だらけである。
メドーマン「どうしたんすか!!?」
メドーマンは急いで玄関まで駆けていき靴を履いた。パーター達もついて行く。
勢いよくドアを開けるメドーマン。
警官「…『野人(やじん)』たちがこっちまで来ています…!!僕たち無能力人間じゃ太刀打ちできません…特魔法が来るまで住民を逃がして野人たちを牽制して貰えますか…?」
「うぐっ!」
警官が腹部を抑えてうずくまった。すかさずメドーマンが彼の体を支えた。
メドーマン「パーター、この人を家に入れてくれ。危険な状態だから救急車も呼んであげて」
ダリアも、治癒系の白呪術を使って警官の傷を治療し始めた。
メドーマン「イーレ」
イーレ「なにー?」
メドーマン「いけそうか?」
イーレ「いつでも…いいよ!」
メドーマン「助かるぞ」
そう言うと、メドーマンとイーレは勢いよく門を飛び出した――