誘惑(丞紬) からだを重ねたあと、まだ熱い手のひらで丞は紬の髪に触れてくる。
額の横から指を入れて、汗で湿った濃紺の髪をかきあげ、そのままゆっくりと頭をなでる。
紬が幾つかまばたきをして見つめると、優しい笑みがこぼれた。
その表情は妙に甘ったるくて、快感の余韻に浸っているように見えた。
そんな顔で見つめられたら、また抱きしめて欲しくなる。
「……朝練があるから、もう寝ないとだよな」
丞はそう言ったくせに、紬の髪を指にくるくると巻きつけ、視線をそらそうとはしない。
まだ触れていたいという欲求があふれだしているように思えて、「もう一度したい?」と紬は静かに尋ねていた。
少なからず紬は望んでいるのだが、あまり露骨な表現になってしまわないよう、声のトーンに気を遣った。
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